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❀ 2-7


発砲音が3つ鳴って、空に白い模様が3つ生まれた。
本日、快晴。
青空に響く、スターターピストルの音と、雄叫びみたいな歓声。


ルフェがクロノス学園に来て1ヶ月ほど経ち、初めての大イベントがやってきた。
『クロノス大魔法運動会』だ。
その名の通り、魔法を使った競技がメインの運動会なのだが、初等部含め全学年が参加し
学年やクラスは関係なくチームに分けられ正々堂々と競い合う。
元々は男子校だったので、若干野蛮で物騒な競技があるらしいが、
日頃の鬱憤を晴らせる一大イベントに生徒たちはわかりやすくテンションが上がっていた。
大魔法運動会は、学園の北にある3つの屋外競技場で行われる。
メイン会場である中央競技場に全生徒は集まりスタンド席で開会式に参加していたが
終わるとそれぞれのチーム席に向かったり、自身が出場する競技場に向かったり動き始めた。
体操着に着替え、大人しく開会式を見ていたルフェは、手の中にあったリストバンドを見下ろした。

 


「なんで私だけチーム別なんだろ・・・。」
「こればっかりは仕方ないよ。完全ランダムで振り分けた結果だから。」

 


ルフェが持つリストバンドはオレンジ、ジノとマリーのリストバンドは白だった。

 


「オレンジはオリヴィアで、白はザインハルトだっけ?変なチーム名だよね。」
「大魔法運動会は、歴代的に有名な大魔導師様の名前をチームに付けてるんだよ。前に説明しなかったっけ?」
「興味なくて。開会式もずいぶん力入ってたね。魔法院の偉い人とか保護者が見に来てるから?」
「6年生にとっては、此処で活躍すれば魔法院や大企業の推薦をもらえたりするので、大事なアピールの場なのですよ。」


なるほど、と観客席を見る。
来賓の大人が沢山いるし、VIP席には煌びやかな格好をした貴族などの姿が遠くからでも見てとれる。

 


「ルフェは障害物競走に出場だよね。応援行くから。」

「お昼は、一緒に食べましょうね!」

 


白チームの2人はルフェに手を振って群衆の中に紛れていく。
寂しさに襲われながらも、ルフェも自チームのエリアに移動する。
メイン競技場と、2つのサブ競技場スタンドには6チーム事に色分けされたエリアがあり、
自分が競技に出ない時は、自チームの席で応援するよう言われている。
校内でサボる気満々だったルフェだが、ちゃんと学園行事に参加しなさいとタテワキ先生から釘を刺されている。
さすが、ルフェの性格をよくご存じのようだ。
ルフェが出る最初の競技まで1時間あるので、オレンジチームのスタンドで適当に時間を潰そうとか考えていると、
肩に重い物が乗った。レオンの太い腕だった。


「よぉルフェ!俺達同じチームだぜー。久々に一緒に過ごせるなぁ。」
「レオン。学園で会うの久しぶりですね。」
「他人行儀だなー。仲良く行こうぜ?」
「ルフェちゃんはお友達と離れちゃって寂しいんだよねー。」

 


巨漢のレオンに隠れて見えなかったが、隣にサジが居た。
サジのリストバンドは青だった。


「サジさんも久しぶりな気がします。」
「6学年は課外授業とかインターンシップとかが増えてくるから、あまり学園にいないんだよ。」
「今日は邪魔すんなよサジ。お前は別チームだ。」
「はいはい。ルフェちゃん困らせたら駄目だからねー。」

 


手を振って、サジは別れた。
スタンド席のオレンジエリアで、適当な椅子に座る。
太陽光を通すため天井が半分開かれているので、競技場はとても明るく競技場がよく見える。
同じチームメイトの、特に初等科の生徒達は、巨漢の主席が主賓席ではなく
一般生徒と同じスタンド席に座っていることにかなりビックリしているようだった。
ルフェはポケットに入れていたパンフレットを取り出した。
最初の種目は、玉入れだそうだ。

 


「ルフェのスケジュールはどんな感じ?」
「二種目目の障害物競走と、4学年の魔法演舞、最後の大魔法合戦です。合間に、ジノとマリーの応援に行きます。」
「二人は何出るの?」
「えっと・・・ジノはサブでの宝探しで、マリーは的当てですね。レオンは?」
「それがさー、俺が出るとパワーバランス崩れるからって、ラストの大魔法合戦しか団体戦出してくんなかったんだよ。
あとは退屈な板競走。」
「マナで車輪の無い板を動かして走る、徒競走みたいなやつですよね。」
「そうそ。障害物も妨害もないから面白くねーよ。」

 


競技開始のピストルが鳴る。
メイン会場での第一競技、玉入れは、3チームごとに競い合う。
自チームのネットにボールを多く入れたチームが勝ちなのだが、マナによる妨害有り、ボールもマナを使ってシュートOK。
まずは青、白、赤チームの対戦。
開始の合図と共に、3色のボールが宙を舞った。
舞うというより、猛スピードで飛んでいるといった方が合ってるかもしれない。
己の腕力やマナでボールを投げ、妨害側はマナで全力でボールを弾いていく。


「初っぱなから、アスリートな種目ですね。」
「人気あるんだよ、この競技。見てて華やかだしな。」
「あれ、もしやサジさん出てます?」
「あーそういや出るって言ってたかな。代理出場らしいが。」

 


青チームのボールをせっせと運ぶ白い飛行物に見覚えがあった。
サジが操るおり紙の鳥だ。ボールを運ぶ鳥と、他チームのボールが籠に入るのを防ぐ蝶の折り紙。

 


「こういう活躍を、企業の偉い人とかが見て評価するわけですね。」
「みたいだな。」

 


遠くから、ルフェを呼ぶ声がした。
隣チームの男子生徒が、ルフェに向かって手を振っている。
顔は見覚えがあるものの、名前も知らぬ生徒に手を振り替えしてやる。

 


「油断も隙もないな。お祭り騒ぎの雰囲気に大胆になってやがる。ルフェ、浮かれた野郎が多いから、気をつけるんだぞ。」
「何を?」
「声かけられてもノコノコついて行くなってコト。」

 


わざとルフェの肩を抱いて、野良猫を追い払うように手を払って男子生徒を睨み付ける。
さすがに主席に睨まれて逃げない生徒はいない。

 


「今日は俺から離れるなよ。」
「私の監視係言い渡されてたくせに、ほとんどリヒトに任せてたじゃなですか。」
「俺も忙しいんだよ!昼飯も一緒にどうだ?ウチの料理人、今日来てるんだよ。」
「ジノ達と食べる約束してる。」
「お友達も一緒に招いてやるって!」

 

 

口をとがらせいじけたように椅子に深く座ったレオンだが、競技の時以外は本当にルフェの近くにいて
ルフェを外野から守ってくれていた。
ユースでのウィオプス退治のおかげでルフェへの好感度がまた元に戻ったことにより、男子生徒の注目が増えたため
色目をつかってくる生徒を蹴散らし、シャフレットの件で興味本位で近づいてる貴族などの大人もけん制してくれた。
普段より人に声をかけられる機会が増えたので、正直助かった。口には出さないけど。
唯一の出場競技である障害物競走は、150m走する間にラインに隠された障害物を避けるだけだった。
下から生えてくる柱を避けたり空から降ってきた網とか槍とかをマナで防ぐ。
大きなマナを使わないので周りを気にすることもなく、3位で無難にゴールしてきた。
友人達の応援もバッチリ出来た。
ジノが出た宝探しゲームは、フィールドに隠された宝物をマナを使って探すのだが、
ジノは動かず数十秒その場で考えただけで、一発で宝を探し当てゴールした。
さすが知将。きっと過去の宝が隠されていた場所を分析したのだろう。
マリーの的当てはアーチェリーなのだが、的が動いたり隠れたりする。順位は2位だったが、命中率はとても高かった。
最近、マリーは前よりおどおどしなくなった。ヴァイオレットの存在を認めて恐れない友が出来たからだろう。
お昼は二人と、レオンとサジ、リヒトが加わり仲良くランチを食べた。
料理人さんがローストビーフをサンドイッチにしてくれて、とても美味しかったので満足である。
そして午後。
大魔法運動会ラストにして最大の目玉競技である大魔法合戦の時間となった。
最後の競技は全生徒が参加する。
会場はメイン競技場で、生徒用のスタンド席は片付けられ仮想空間を作り出す。
競技内容は、簡単に言えばマナを敵に当てる戦争ゲームだ。
自身のマナでもよし、フィールド内にランダムに配置された武器を使うもよし。
弾は全て自チームカラーに変換され、敵の弾に当たった瞬間リタイア。
ちなみに、自チームの弾は当たらないので安心である。
もちろん仮想空間用の人体設定になってるので、怪我は現実世界に影響しないため好きなだけ暴れられる。
全生徒、全チームで戦う為空間が展開されている競技場内の天井までもが戦場と化す。
全員フィールド内に降りて待機しているルフェは、周りの抑えきれない興奮を感じていた。
事前に、経験者であるジノからは、この競技は地獄なので危ないことしないで

さっさとリタイアした方が賢明だとアドバイスをもらっている。

 


「楽しみだなールフェ。」
「私は早々にリタイアします。」
「俺達はそうはいかないと思うぜー。ほら。」

 


会場の中央にあるメインモニターに、何人かの生徒の顔写真が映し出されていた。
レオン、リヒト、グランなどの他に、何故かルフェの顔もあった。

 


「あそこに移ってる生徒はポイント3倍のシード選手に設定されてる。」
「そんな、勝手に!?」
「成績とマナの量とかによるが、ルフェは見事に指名された。で、俺達が万が一簡単に負けてみろ、チームメイトが恨むぜー?」
「卑怯な・・・。さっさとリタイアしてのんびり観戦してようと思ったのに・・・。」
「ハッハ!俺が守ってやるって。」

 


仮想空間が展開された。
実際のメイン競技場よりかなり広大な石造りの場が目の前に広がる。古代のコロッセオのようなデザインだ。
地面は土で、天井には6チームの旗がぶら下がっていた。
楕円形の闘技場の中には1400人の生徒が全て収まっているが、それでもまだ空きがありひしめき合ってる感じはしない。
どれだけ広く作られているのだろうか。
観客席から声がするが、皆黒塗りの半透明なシルエットのみ。姿はアバターで声だけ投影しているのだろう。
男子生徒は早くも場の雰囲気に飲まれ、本能からくる闘争心を抑えきれず雄叫びを上げる生徒が出てきた。
マイク越しの声が響く。
古代闘技場の雰囲気に合わせて声がこもっている仕様らしい。

 


『これより、大魔法合戦を始めます。
ルールは簡単、マナを相手にぶつけるだけ。
スタートの合図と共に出現する武器、トラップは好きに使ってくれて構わない。
アセットの使用は禁止。くわえて、あまりに非道な行為はポイント剥奪、即離脱とする。
クロノス学園の生徒としてふさわしい行いを期待します。
1分後の合図を待って開始します。』


先生がアナウンスを終えただけなのに、再び雄叫びが至る所で上がる。
何がそんなに楽しいのだろうか。
ルフェは手の中に杖を出現させて握った。
現代魔法使いはあまり使わない魔法具だが、マナの投げ合いには最適な武器だ。
特にルフェは、コントロールがまだ弱い。

 


「高ポイントの俺達はいい的だ。ある程度人数が減るまで場は混乱してるから、防壁張って様子見だな。」
「集中砲火されたら防壁崩れますよ。」
「俺を誰だと思ってるんだー?主席だぞ。ルフェごと囲んでやらあ。」

 


カウントダウンが始まっていた。
興奮と、緊張が混ざり合って異様な空気になっていた。野生むき出しの闘争心と、敵に対する殺意に似た敵対心。
3,2,1のタイミングで、レオンがルフェごと卵形のシールドで包んだ。
開始のブザーが鳴り響いた。
咆哮と、発射音も重なってもはや何の音かわからなくなった。
半透明なシールドの中で、ルフェはめまいがしそうになるほどの閃光を浴びる。
予想通り、全方面からマナによる攻撃を受けてるのだ。

 


「凄まじいですね。レオン、普段恨まれてるのですか?」
「妬みだろうよ。俺みたいにかっこよくて大人で主席だぜ?

この機会に倒してしまおうっていう集団心理で強くなってる気でいるんだよ。」


ずいぶんナルシストな発言だが、実力が伴ってるためあながち間違ってはいない。
外部からあれだけ攻撃を受けていても、シールドが壊れる気配は無い。

 


「うーん。ずっとこうしてるのも暇だなー。」
「私はこのままここに居たい気分です。面倒くさそうだし・・・。」
「悪いな、そうはいかないんだ。今日は観客が多い。」

 


ちらりと見たレオンの顔が、険しくなっていたのに気づいた。
そうだ、レオンの家は貴族のトップ。今日来賓で来てるお偉いさん達もきっとレオンの勇姿にを見ているし
中には厳しい目で酷評してる人もいるかもしれない。
ルフェも杖を構えた。

 


「仕方ない・・・。適当に倒して、適当に退場すれば文句も言われませんよね。」
「じゃ、ちょっとばかし頑張りますか。」

 


レオンがシールド解除と同時にマナを爆発させた。
突然シールドが割れたことで生徒達が攻撃の威力を強めるが、飛来する物体があった。
ルフェを抱き抱えた主席が、体の周りにマナの結晶をいくつも展開させ、下にいる生徒達に投げつけた。

的確な攻撃にレオンを狙ってた敵が反撃されて退場していく。
体にオレンジのペイントが付いた生徒が粒子となって消え、空中でいい的となったレオンに次の攻撃が向かってくる。
レオンの体は下には落ちず、空中にマナで薄い板を作り足場兼下からの攻撃を防ぐ盾にする。
ふと視界の端ではためく、天井にぶら下がって揺れている旗を見る。
オレンジの旗には電子数字で106と記されている。数はどんどん増えており、他の色の旗も同様。
あれはチームごとの点数表のようだ。
下から超濃度のマナの弾丸が飛んできたのでルフェを抱えて空中をおもいっきり飛んで避ける。
弾丸は空中で爆発したが、レオンに抱えられながら地上を探ると、こちらを狙っている砲台が見えた。
黒い虚空の穴がマナを込めたことでうっすら光り出す。
2人がかりで扱うような武器まであるのか。
ちまちま杖でマナを敵に当てるより沢山の敵を巻き込めるのだろうが、砲手を狙われたら終わりだろう。
空中で足場を作りながら逃げるレオンは、それをわかっているようで、
走りながらマナの塊を作り出し、砲台で自分たちを狙っている彼らに高速で打ち付けた。
あまりの早さに対応が追いつかず、砲台ごと退場。
フィールド内に設置された武器は補充がないようで、壊されたら終わり。
でも見る限り、まだ砲台は残っている。

 


「そろそろ降りるかー。上にいて集中攻撃されるより下で数減らすぞ。」
「私、あまり攻撃に多様性はないです。足を引っ張るようなら―」
「ルフェはチームの要だ。最後の大技決めてもらうまで耐えてくれ。」
「大技?私に何させる気ですか・・・。」

 


地面に着地する。
戦場は混乱に包まれてはいたが、頭のいい上級生が統率を始めたようで、個人戦からチーム戦に切り替わっている。
緑チームは防壁シールドを構えた生徒を前面にして、後方から細かなマナが飛んで来る。
細かすぎて避けきれず、体に被弾してしまった生徒がどんどん退場していく。

 


「リヒトは緑チームだったか。この戦術、アイツっぽいな。」

 


大きめな盾で緑の攻撃をよけ、尚且つルフェに飛んで来る攻撃を落としながら、レオンはまだ涼しい顔だった。
頭上に白い鳥が飛んでいる。サジの魔法だろう。あれもマナで出来ているので、当たれば退場となる。
他にも召喚生物や武器の弾丸、罵声に悲鳴が飛んでいる。
頭上ではためく旗のカウントはどんどん回っているが、1400人もいると、なかなか少数に至るまで時間が掛かる。
マナの少ない生徒は、どんどんマナの枯渇により防御が出来ず退場している。
となると、上級生など手練れが残るためどんどんレベルが上がってしまう。
ジノとマリーはどうしただろうか。
ジノは賢いから生き残ってそうだが、地味なので白チームのリーダーとはいかなそうだ。
ルフェは手を合わせ力を込めた。
マナを凝縮し卵形の球体を作り出すと、ちょっとずつちぎるイメージで蝶を飛ばした。
蝶はひらひら飛びながら、敵の攻撃に当たらぬように羽ばたいて緑チームの防壁を越えていく。
防壁の向こうで粒子が見え始めたので、上手くいったのだろう。

 


「軌道の読めない蝶で攻撃か。ルフェの蝶なら持続力もあるし簡単には落とせない、か。」
「サジさんの真似しただけです。レオン、私もあれ、打てますか。」
「お、いいね!」


レオンが防壁を前面に移動して、上から確認したときに見た大砲へ走り出し、ルフェも続く。
背後から撃たれないように大量の蝶を纏わせる。
緑チームは二人の狙いに気づいたようで、側面から足を止めようと大きめの弾を撃ち出した。
レオンが落とそうと手を上げたが、味方のオレンジチームが二人の周りについて防壁を展開してくれた。
走りながらの防御はなかなか難しく、退場する仲間もいたが、連携で防壁を厚くしていく。
どうやら、オレンジチームの要はレオンとルフェだと判断してくれたようだ。
人混みをかき分けて、大砲の姿が見えてきた。
あと少しという所で、大砲が爆破され、足を止めざる終えなくなった。
空中から現れたのは、リヒトと小柄な男子生徒。
ふわふわしたオレンジ髪をしていて、背格好からみて初等科だろうか。リストバンドは赤だ。


「なんだお前ら、共闘かー?」
「お前を野放しにしとくのが一番厄介だからな。先に潰す。」
「僕はリッキーに脅されただけでーす。ごめんねルフェちゃん。」

 


咄嗟の判断でルフェを抱き上げてレオンは走った。
凄まじいスピードに景色が歪んだ。
リヒトと、小柄な少年が繰り出す攻撃の威力は凄まじく、レオンが走った後ろで爆発が起きている。

 


「ココロまでたきつけるとは、リヒトも必死かよ。」
「ココロ?さっきの男の子?」
「後で紹介してやるよ、ウチのナンバー4。」

 


レオンが足を急停止させて止まると、体すれすれでマナで作った槍が床に刺さった。
アセットの使用は禁止されているが、マナならば問題ない。
ルフェを床に下ろし、背中で守りながらリヒトとココロという名の少年が織りなす複雑で正確な攻撃を落としていく。
体の周りに蝶を飛ばしながら、他の生徒が放つ弾丸をルフェが防ぐ。

 


「ルフェー!こうなりゃ仕方ない、此処でマナを爆発させろ。全力でな!」
「それは・・・タテワキ先生に怒られちゃう。」
「俺が抑えてやるから安心しろって。それに此処は仮想空間内。外には漏れない。」
「でも・・・。」
「チームのためだ。」

 


はためくオレンジの旗を見る。点数では3番目で負けている。
此処で自分とレオンが退場すればさらに点差は開いて最下位、なんてこともありえる。
ルフェは体の中心にマナを集めるイメージを作る。
風が下から巻き上がり、白いオーラが爆発した。
―爆発はほんの一瞬で終わる。ルフェの体を槍が貫いたからだ。
貫かれた箇所から粒子が溢れ、ルフェは退場した。
槍を投げた張本人であるグランは、リヒトの横に並んだ。
たった一瞬の爆発だったが、周りの生徒は全て退場し、残っているのは成績上位生徒や集団でソールドを張っていた者のみとなった。
グランのリストバンドは紫。

 


「まずは俺を倒してからってか。」
「違う。グランはルフェをこれ以上お前の道楽に巻き込まれないようにした。」
「同じチームだ。一緒に戦うのは当たり前だろ。妬いてんのかー?」
「ルフェにマナの爆発をさせるのは、皆わかってたよ。」

 


難しい顔をしたグラン。リヒトよりは怒りを前面に出してはいないが、言いたい事は同じなのだろう。

 


「彼女のマナはチート級。此処で一斉に退場させたら、生徒達の恨みを買う。」
「それだけじゃない!此処は自己をアピールし将来に繋げる場だ。その機会をお前が奪ってどうする。」
「こんなお遊びで媚びる必要ねーだろうが。」
「貴族のお前に何がわかる!将来を約束され、何の苦労もなく生きていける人間がえらそうに!」
「リッキー、落ち着いて。」

 


ココロになだめられてもリヒトの怒りは収まらず、手にマナを集中させた。
拳が白く灯る。

 


「此処は貴族の遊び場でも暇潰しでもないぞ・・・。」
「僕も、今日のレオくんには反対かなー。皆楽しんでたのに、一人で目立って、一人でやろうとしてたよねー。」

 


はあ、と大げさに深くため息を吐いてみせたレオンが顔を上げ、その眼光の鋭さに気づいた時にはもう遅かった。
マナで作った棒で腹部を貫かれグランが即退場した。
目で追えない程のスピードだったが、リヒトは反応し手に宿していたマナを投げつける。
レオンは攻撃を避け、まだ周りで戦っていた生徒全員にマナによる遠方射撃を行い粒子にしてから
シールドを張ったココロごとマナの剣で切り裂いた。
真っ二つになるココロの体の向こうから、リヒトが砲撃を繰り出すも
またしても瞬間移動でリヒトの背後を取り剣を背中から突き刺す。
オレンジの旗が最高得点をたたき出したのが見えた。

 


「お前を見ているとイライラする・・・。」

 


リヒトが退場し、競技終了のブザーが鳴り響く。
仮想空間が頭上から解かれ、元のメイン会場に戻っていき、退場していた生徒達が芝生の上で集まっていた。
先ほどの、上位者同士の戦いはモニターで中継されていたが音声までは流れてなかったのだろう
皆主席の一人勝ちに歓声を上げ、興奮を抑えきれない様子だった。
会場内に教師のアナウンスが響き、閉会式に備えて整列するように促す。
動き出す生徒達と、おしゃべりが何重にも重なる喧噪の中、レオンの独り言を隣にいたルフェだけが聞いていた。

 


「俺だって、気楽に遊べたらどんなに楽か・・・。」

 


その時のレオンの瞳があまりにも冷たく、見たことも無い顔をしていたので掛ける言葉に迷っていると
いつの間にかタテワキ先生が目の前に立っていた。
背を丸めて白衣のポケットに手を突っ込んでいるが、先生もまた、空気が違う。

 


「僕も君の行為には苦言を呈するよ、コルネリウス君。
来賓も沢山居る中で、ルフェを目立たせるのは得策ではなかった。
グライナー君の機転で、マナの放出がまだ少ないうちに退場出来たのは幸いだったけど。」
「シャフレットの件は、学園内から漏らさないようにしてるってことですね。」
「当たり前だ。世間に漏れれば魔法院でさえ抑えきれずルフェは表舞台にさらされる。
アテナ、クロノスの外ではシャフレットの件は口外出来ないようにしてあるのに、目撃されては意味が無い。
学園長先生が咄嗟に来賓用のモニター映像に加工してルフェの力がバレないようにしてくれた。」
「・・・はいはい。すみませんでした。軽率でしたよ。後で怒られに行きますから。」

 


この喧噪の中でも、二人の声はよく聞こえた。
いや、周りの音が遠くなったのかも知れない。
タテワキ先生の圧が緩まっていくのを感じた。

 


「此処にいる間は楽しむ権利はあるだろ、コルネリウス君。もう少し、余裕を持ちなさい。」

 


そう言って先生は去って行った。
さて、そろそろ整列するかと振り向いたレオンの顔は、もう元通りになっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 


閉会式は何事もなく終了し、チームの順位が発表された。
1日かけた大魔法運動会、各競技の総合点による優勝は、緑のチーム・エドワードだった。
会場の片付けは初等科の生徒と教師がやるとかで、早々に解散するよう言い渡され大魔法運動会は幕を閉じた。
ジノ、マリーと合流して競技場エリアから寮を目指す。
昼間、レオンの料理人が沢山お土産をくれたので、夜は食堂ではなく各自部屋でお弁当を食べることになったので
もう今日は自室へ戻ることにしたのだ。

 


「何もしてないのに、疲れた・・・。」
「1日掛かりだしね。」
「ひ、人も沢山いたから・・・私も、疲れちゃった。」
「ヴァイオレットは出てきた?」
「競技だってわかってるから・・・。」
「マリーがヴァイオレットモードだったら無双してポイント大量にもらえたのにね。」
「や、やめてよ~!」

 


笑い合いながら、ルフェは人混みの向こうにこちらをみているグランを見た気がしたが
次の瞬間には姿は見えなかった。
空はオレンジに染まっている。
イベントの興奮が収まらず熱されたままの生徒。帰る足も名残惜しそうだ。
自分の胸の辺りを撫でる。
はっきり見たわけではないが、自分に槍を突き刺して退場させたのはグランだったと思う。
遠慮の無い一撃は、胸を重くさせている。
そこまで嫌われてしまったのだろうか―・・・。
アンナの次に出来た友達。一緒に本を読んだ仲なのに。
あの穏やかな時間を楽しいと思ったのは自分だけだったのか。
―シャフレットを滅ぼした大罪人だし、嫌われて当然かもしれない。

 


「ルフェ?どうしたの?」
「ううん。何でも無い。ご飯食べたらシャワー浴びてすぐ寝たい。」
「同感。」

​初めてのイベントは、平和に終わりを告げた。

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