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❀ 2-6

本日は朝から4学年Ⅱ合同でアセットの授業のため、体操着に着替えて武道館に集められていた。
ルフェのクラスの他に4学年Ⅱは2クラスあり、計3クラス60人程が集合した。
長方形の武道館内部は周りをぐるりとスタンド席に囲まれており、アリーナは板張り。
外から見てるときより、中に入るととても広く見える。バレーボールコート2つは余裕で入りそうだ。
4学年の担任と、他に教員が現れ整列を促す。タテワキ先生の姿もあった。
学年主任がマイクを握って説明を始めた。

 


「これからチームに分かれて仮想空間でのアセットを使用した模擬戦を行ってもらう。
仮想空間内ではフィールドにあらゆるトラップが展開されている上に、妨害、戦闘を許可。
他者チームをリタイアさせ勝ち残った上位チームにポイントを与える。
なお、君たちの人体構成をマナに変換するため、フィールド内での怪我は現実には影響しないが
あまりに非道な行いをしたチームは減点。場合によっては強制離脱してもらう。
詳細はチームに分かれた後、リーグの開始時に伝達する。まずは指定されたポイントへ移動すること。」

 

ルフェは24番チームに振り分けられたが、驚いたことに、ジノとマリーと同じチームだった。


「他のチームはクラス関係なく選ばれたみたいだから、奇跡だね。」
「仕組まれた奇跡な気もするけど・・・。」


ルフェはチラリとタテワキ先生を見た。
背を丸めてだるそうに立つ白衣姿の教師はあくびをかみ殺しているような顔をしている。
タテワキはルフェの監視役だ。ルフェが他の生徒と組んで平常心のままマナを使うとは思えない、と考えているに違いない。
武道館内部に、二つの巨大な発光する正方形が現れた。光る正方形は、スタンド席すれすれで、天井に届きそうなぐらいでかい。
どちらもマナで作り出された仮想空間を形成するエリアで、AとBに別れ模擬戦をすることになった。
ルフェ達3人はBエリア。
正方形の中に入ると、そこはもう武道館ではなかった。マナで作られた異空間だ。

武道館よりもっと広く、境界線はおぼろげで霧に紛れている。
全体的に白く輝いており、彼らの前には、緑の生け垣が立ちはだかっていた。
高さは5mはあり、巨大な緑の壁はずっと端まで続いている。
ルフェの担任がマイクを握って、Bチームの皆にルールを説明する。

 

「えー、Bチームは全21チーム。全チーム一斉にフィールド内に入ってもらいます。
フィールドには数々のトラップが仕掛けられてますので、各々持ってる知識と力を使いつつ他チームと戦闘。
なお、戦闘時に使っていいのはアセットのみ。マナによる攻撃は一切禁止します。
他者にマナを使った瞬間即離脱。負けとなります。
他のチームを倒し上位5位に残るか、ゴールに辿り着いたら終了。先着順で残留、順位が決まります。
他チームとの提携は許可しますが、同順ゴールはありません。以上、質問ありますか?」

 


手は上がらなかったので、各自スタート位置につく。
ルフェチームが指定された場所に立つと、緑の茂った柵に人1人が通れる穴が空いた。
まるで歓迎されてるかのような。

 


「ルフェ、アセットなら気を遣わなくていいから気が楽だろ?」
「うん。マリーはアセット得意?」
「あまり・・・。私、運動も得意ではなくて・・・。」
「まあ、やれるとこまで頑張ろうよ。」
「ジノ、一つ気がかりがある。」
「僕もだよ――。」


ジノの言葉に、2人は頷いた。
セットの声がした。騒がしかった仮想空間内が静寂に包まれ緊張感が伝わってくる。
二度目のコールで身をかがめ、スタートの合図で一斉に入り口に走って柵の中に飛び込む。
そこは、生け垣で作られた巨大迷路だった。
右を見ても左を見ても、目の前も背の高い緑の壁。
天井は無く空が薄ピンク色に染まっているだけで、何も無い。
どこか遠くから声や物音が聞こえる。


「フィールドのトラップがまだ不透明で情報が少ない。まずは慎重に進もう。」
「はい、わかりました。」
「ジノが一番頭良さそうだし、ジノがリーダーね。」
「ぼ、僕?リーダーなんて格じゃないと思うけど・・・。」
「適任だと思います。まずは、どちらに進みますか?」


何も情報がないので、とりあえず壁沿いに進もうということになり、左に進むことにした。
だがすぐに道は直角に右に曲がったので、仕方なく進むと、開けた場所に出る。
緑の生け垣に囲まれていることに変わりはないのだが、違和感を感じてジノが静止を促す。
と、生け垣を跳び越えて他の生徒が現れた。
男女混合で6人もいる。空中ですでにそれぞれ武器を構えており、ジノがやはりか、と短く呟いた。
こっちだ、と誘導し攻撃が飛んで来る前に右の道に入る。
追撃を防ごうとルフェがアセットに力を込めようとネックレスを掴んだが、床から生け垣が生えてきて道が切断。
さらに、床が動いた感覚がした。


「回った・・・?」
「どうやら、この迷路は消えたり生えたりを繰り返して、道以外の空間は動くみたいだ。マップを覚えさせないためだね。」
「ジノくん、わかってて右へ行けっていったの?左にも後ろにも道はあったよ?」

 


まあね、とジノは床に片膝をついてポケットから紙とペンを出した。

 


「仮想空間内は術者の好きに展開できる。武道館の実際の形状は関係ないから、円形でも三角形でも可能。
でも迷路というコンセプトから外枠は正方形か長方形で確定だろう。
その中で、現在確定してるのは、道の形成が可能なことと、フィールドの移動。
僕たちは南から3番目の入り口に入って、こう進んだけど、90度回転したから、おそらく、この辺り。」

 


ジノが紙に図形を書くのを2人は覗き込んだ。

 


「さっきも言ったけど、此処は仮想空間で、マップを把握しても無意味だと思う。他の場所も動くだろうし
南から北へ転移させられる可能性もある。」
「ゴールの場所もまだわからないしね。」
「そう。普通なら四方いろんな所から各チームが内部に入ったし、ゴールは中央だろうけど
他のチームもそれを考えて中央に集まる。中央へ近づくにつれ、他のチームと出会う確率もグッと高まるし、

さっきみたいにルフェをさっさと潰そうとしてくるだろうね。」
「ジノくんの言った通り、開幕でルフェさんが狙われたね。」

 


スタートの前に、ジノが言っていた。
きっと自分たちの近くにいたチームがいの一番にルフェを狙って、おそらく手を組んで団体で襲ってくる。
だから逃げやすいようにアセットはまだ形成するなという指示は、見事に当たっていた。
ため息をついて、ルフェはネックレスの先についたアセットを握った。

 

「私、マナの量が凄いだけで、アセット使うのも体動かすのも平均並なんだけど・・・。」
「マナの他者への使用も禁止されてるけど、どこか未知数な部分を恐れてるんだろう。」
「どうするの。ジノくん。」
「2人はどうしたい?勝ちたい?」

 


ジノの問いに、2人は顔を見合わせた。

 


「せっかくだし、いけるとこまでいきたいね。」
「う、うん。ポイントもらえれば、夏の試験も有利だし。私、勉強苦手だから・・・。」
「ジノは?」
「僕にとってもポイントは魅力的かな。」
「じゃ、決まり。」

 


まずは戦力の確認をしようということになり、各自アセットに力を込める。
ルフェのアセットはハルバードと呼ばれる長柄武器の一種だ。
ルフェの身長と同じぐらいの槍の先端に、斧に似た半円の突起物が付いている。
全体は白いが、所々青いラインが入って入る。
世界で三本の指に入る武器職人、アテナ女学院学院長が作ってくれた特注品だ。
ルフェに会わせて小さく軽く作られており、デザイン性も高い。
マリーはピンクレッド色の弓。少女が扱うには大きめだ。
ジノのアセットは2本の短剣だった。黒い柄に金の装飾、刃の部分には黒いのラインが入って入る。
鞘はなく、腰のベルトにくっつけるように装着する仕様らしい。

 


「いい感じに近中長距離武器揃ってるけど、残念ながら僕は前衛向きじゃないんだよね・・・。」
「なら私が前衛。アテナでアセットの成績はまあまあ良かったよ。ジノは作戦参謀でいいと思う。」
「私も、的中率はそれなりにいいですから、ルフェさんの手伝いぐらいは出来ます。」
「ありがとう。此処に止まってるわけにもいかないから、そろそろ進もうか。」
「でも、出入り口は・・・。」

 


ぐるりと生け垣に囲まれていたが、入った場所と別のところに隙間が空いた。
出口のようだ。
ジノが頷いたので、警戒しながら出口から出て通路に入った。
生け垣の迷路がしばらく続き、ジノの指示で進んでいく。
一見行き止まりの場所に見えたが、目の前の壁が下に降りて、広い空間に続いた。
中に入ると入り口が閉まり、左に40度ほど回った。
別の入り口が開き次の広場に入ると、すでに2つのチームが争っていた。
睨み合っていた両者が、ルフェの顔を見るなり相談もせずとも共闘を決め、武器を構えてルフェに飛びかかってきた。

 


「左側が開くはずだ。扉が開くまで応戦!」
「了解!」


アセットのハルバードを構える。
頭上からルフェに飛びかかってきた男子生徒をマリーが弓で射貫くが、威力が弱く即リタイアまでは持ち込めず、
ルフェがハルバードの先端で腹部を突いた。空中に居たため避けることも出来なかった男子生徒は、

そのまま体に亀裂が入り形状破壊して消えた。
続いて長剣を構えて走り寄ってきた女生徒の刃を柄で防ぎ、マリーが援護射撃を2発続けて放つ。
威力は弱いが同じ箇所に穴を開けられ、女生徒の脇腹に穴が空いた。
形状破壊のままリタイア、とは行かず、女生徒は数歩後退。
今度は頭上から飛び道具が降ってきた。小さな鉄球を避ける。あれもアセットの一種なのだろうか。
こっちだ、とジノが叫ぶ。
左側の壁の前でジノが立っており、2人が合流するとちょうど入り口が開き、中に入るとすぐ口が閉じた。


「凄いわジノくん。次開く箇所がわかったの?」
「予測が当たったみたいだ。」

 


またしても片膝を突いて、紙に今まで歩いた道を書き起こすジノ。

 


「僕の予想が合っていれば、出入り口の出現には規則性がある。
でもその規則は同一ではないみたいなんだ。」
「・・・全然わかんない。」
「パターンがいくつかあるんだ。10秒ごとに開く扉もあれば、50秒かかるものもある。
配置はランダムだけど、2つ前の部屋は40度回っただけだったろ?つまり―」

 


ジノが書き表す図面を見つめる。
正方形の中に、僅かな線しかなかった部分が埋められていく。

 


「迷路の配置はわからないけど、回る部屋は等間隔、上下とレンガのように食い違うようなっているんじゃないかな。
入った道によって排出される場所が違うから回る角度も変わる。
その角度で大体の位置はしぼれるはずだ。」


わかる?とマリーに問えば、さっぱり、と首を左右に振った。
ルフェも同感だ。ジノが何をいってるかわからないが、ジノには何か見えてるようだ。

 


「そうなるとこの部屋は端っこにあるからー」

 


言葉の途中で、床に振動を感じた。
また回転するのかと思いきや、床が斜めに傾きだした。

 


「このまま下に落とす気だ!次の出口は・・・あっち!」

 

 

ジノが指さした時、ちょうど生け垣に穴が空いて出口が生まれた。
ゆっくりと傾く地面に逆らって出口に走る。
完全に直角になるまえに3人はなんとか迷路内に戻ることが出来た。
一番最後になってしまい、ルフェに手を掴んでもらってようやく脱出したマリーが肩で息をする。

 


「こここ、怖かった・・・・。」
「今みたいなトラップもあるのね。」
「おかげでゴールの候補が出てきた。その為には・・・。あっちだな。マリー、いけるかい?」
「大丈夫!」

ジノを先頭に迷路を進む。
右に曲がったり左に曲がったりしながら分岐を迷うことなく進んでいくジノ。
左右に分かれるT字路を左に曲がった先で、縦に長い真っ白な部屋に入った。
緑色の生け垣ではない。
ただ白い壁が囲んであるだけの場所で、男子3人チームと対峙してしまった。
手に持ってるアセットは全員棒状の鈍器だった。

 


「よう転校生!生き残ってたらしいなぁ。」
「先日の礼をたっぷり返せるなぁー。」

 


ニタニタ笑うその顔を見て、反応したのはマリーだった。
ルフェをかばうように前に立つ。背はルフェより小さいのに。

 

 

「誰かと思えば、カフェで伸びてたバカ共じゃねぇか。タバスコ入りの水は美味しかったかー?」
「テメェ・・・!」

 


ジノがマリーの顔を覗き込むと、彼女の瞳が紫に変わっている。


「ヴァイオレットに入れ替わってる。」
「怒ってくれたってことで、いいのかな。」
「好都合だ。ここらで数を減らしておこうか。」

 


返事は無かったが、ジノの言葉を理解したのか
マリーは握っていたアセットの形状を変化させ、先端に鉄球がついた鈍器ーメイスになった。
アセットは持ち主があらかじめ登録してある形なら変化出来るようになっている。
近距離戦、長距離戦にそなえるためだ。
つまり、マリーはあらかじめヴァイオレットが望む武器を登録していたことになる。
鈍器を握り、マリーは迷わず3人組に突進していった。

 


「ねぇジノ。あのマリーは、マリーと呼ぶべき?それともヴァイオレット?」
「どっちでもいいんじゃないかな・・・。」

 

ヴァイオレットに意識を委ねたマリーは、メイスを一閃。横凪ぎに払って真ん中にいた1人を弾き飛ばし壁にたたきつけた。
そのまま反対側へ腕を引いて先端の鈍器で右にいた男子生徒の頭を叩く。
たった一撃で生徒は戦闘離脱となって消えた。
左にいた生徒は混紡を振り上げてマリーの脳天を狙ったが、いつの間にか突進してきた

ルフェのハルバードに胸を突かれて戦線離脱した。と、今し方ルフェ達が入ってきた入り口が再び開いた。
長い三つ編みを背中に垂らした女生徒を真ん中に、3人のチームが現状を見て即座に理解したようでルフェの姿を見て武器を構える。
ジノが敵の一番近くになってしまった。すぐさま踵を返してジノを守ろうと走ったが、

その前に敵とジノの間に白い分厚い壁が生えて両者を切断した。
ホッと胸をなで下ろし武器を下げた。

 


「ジノがトラップ操作してるんじゃないの?」
「今のは僕も予想外だよ。壁が出てこなかったらやられてた。」

 


轟音と共に何かが崩れる音がした。
音は何度も響き、振動も感じる。向こう側で、敵チームが壁を壊しているのだと察した時、

ヴァイオレットもジノの隣に立ってメイジを肩に担いだ。

 


「正念場だね。僕の予想だと次の入り口が開く条件は、1チームのみになった時。
次に進むためには勝つしかない。壁が分断したのは本来出口になるはずの扉が入り口になってしまったため、

システムを組み直す猶予時間。ヴァイオレット、好きに暴れてくれ。ルフェはさっきみたいに援護。」
「今のジノ、全然地味じゃないよ。」
「褒めてるのかな、それ。」

 


ヴァイオレットがメイスを構え、壁に向かい思いっきり叩きつけた。
壁は一発で穴を開け、ヴァイオレットが開けた穴の向こうで唖然とした顔が3つ見えた。
すかさず、ルフェが穴に侵入して先陣を切る。
三つ編みの女生徒に向かって槍を突き刺すが、両脇の男子生徒2人が切っ先を叩いて穂先を落とした。
右側生徒の武器は棍棒、左側生徒はトンファーだった。
威力を落とされたルフェの上を飛んでヴァイオレットがアセットのメイスを振り下ろす。
勘は大分するどいようで、3人一斉に後方に飛んで避けた。
追撃して追い込もうとするも、連携が取れた動きでルフェかヴァイオレット、必ずどちらかが追い込まれる。
3対2の不利が思いっきり現れた。
と、思われたが、トンファーを持った生徒の眉間に穴が空いた。
後ろで、弓を構えたジノがいた。
彼も事前に弓の形状を記憶していたみたいだ。
短剣2本を腰に差して前衛だと思わせ一時的に警戒心を忘れさせたのだろう。
有利だと確信した彼らに地味な彼の姿は認識から消えた。
1人が戦線離脱、ヴァイオレットが女生徒の腹部を叩き、ルフェが棍棒をアセットの刃で叩き割った。
追い打ちにジノが弓を放つと、形状破壊でリタイア。
再び出口が開いた。

 


「ジノ、ナイス。」
「2人もね。ヴァイオレットは・・・戻らないみたいだから、好都合、かな?ルフェは、アセットに他セットしてる?」
「私も弓型だけ。」

 


まだ戦闘は終わってないと本能的にわかっているのか、マリーはヴァイオレットのままなので
そのまま3人で真っ白な部屋を出た。
すると、その先は生け垣の迷路ではなく、円形の競技場だった。
淵に壁はなくぼやけているだけで、薄ピンクと水色が混ざったマーブル柄の雲が広がっている。綿飴みたいだ。
ルフェたちの入室とほぼ同時に3つ扉が開いた。ルフェ達と合わせ4チームが一堂に会する。
全員敵の存在を認知した瞬間に武器を構えるが、ジノはルフェに指示を出した。

 


「いいの?」
「大丈夫。」

 


ルフェがアセットの形状を解除すると、一歩前に出て、マナを込める。
足下から風が吹き出しルフェの輪郭が僅かに光り出す。
マナを爆発させる気だと誰もが思った。
ルール上、他者に向けてマナを使っての攻撃は禁止されているのだが、皆シャフレットの大惨事の噂が頭をよぎったようで
防壁シールドや、アセットに盾を設定した生徒が盾で身を守ろうと防御体制に入る。
ルフェに灯る光の輝きが更に増す。
爆発するーそう誰もが身構えたとき、小柄な女生徒がルフェの横を通り過ぎ、競技場の中央まで走った。
アセットを弓の型に変え、何も無いはずの空に向かって放射した。
地味そうな少年も中央に向かって走る。と、弓を構えた少女の床に円形の切り込みが入った。
あれが上へ上がるエレベーターと周りの生徒が気づいた時には、ルフェも仲間の元に走っており
少年の手を借りて円形エレベーターに乗り込み、そのまま天井の雲の中に消えていった。

 


『チーム24、クリア。第3位。』


電子アナウンスの後、3人は真っ白で眩い光に包まれた。目を開けると、そこは正方形の仮想空間の外、武道館の板の上だった。
ルフェ達のようにすでにクリアした上位2チームが、ルフェを見て驚きの目を向けている。
3人はそれぞれ目を合わせ、何も言わずともハイタッチを交わした。

 


「やった!」
「すごいわジノくん!ジノくんがずっと指示してくれていたおかげよ。」

 


マリーはいつの間にか元に戻っており、手を組みながら嬉しそうにぴょんぴょんと跳びはねた。

 


「最後、私にマナを込めさせたのは威嚇のためね。」
「そう。他者に当てなければルール違反にはならないけど、おどしにはなった。僕たちの戦力であれだけの人数相手に出来ないし
全員で僕たちを狙うのは明白だったからね。先手を打ったんだ。」
「天井がゴールだなんて、よく気づいたわね。」
「位置的にあの部屋が中央だったんだ。四方から同時に入室があったろ?入り口が集中してるからゴールは四方ではありえない。
何かトラップかスイッチがあるのかと思ったけど、見たところ何もなさそうだったし、先手打ってから考えるかと思ったんだ。
見事初手の読みが当たって、第3位。2人のおかげだよ。」
「隠れた名将がいたようだ。先生方もとても驚いてたよ。」

 

担任の教師がにこにこ笑いながらやって来た。

 


「今回、活躍した生徒には特別ポイントの付与がある。ミルトン君には満場一致で1ポイントを与える。それを伝えに来たんだ。」
「ぼ、僕にですか?」
「この仮想空間の仕組みを瞬時に理解し把握、攻略まで行った。チームメイトへのアシストも出来る。素晴らしい。
将来は院の作戦参謀に推薦したいぐらいだ。おめでとう、ミルトン君。君の活躍が誇らしいよ。」

 

あまり褒められることに慣れてないのか、困惑した表情のまま言葉に詰まって、深々とお辞儀をした。
先生は満足そうに微笑んで、授業が終わるまで武道館内での自由行動を言い渡し去って行った。

「僕が1ポイントもらっちゃっていいのかな・・・・。2人が戦ってくれなかったら何も出来なかったし。」
「あ、いつものジノに戻った。」
「フフフ。指示してるときのジノくん、キリッとしててかっこよかったもんね。」
「ジノも二重人格?」
「ち、違うよ!」

 


顔を真っ赤にして照れるジノに笑い合っていると、けたたましい警報が鳴り響いた。
ルフェの体が震える。
聞き覚えがあるこの警報音。
アテナ女学院が奴らがやって来た時の――。


「イェーネさん。行きますよ。」

 


警報音の騒乱に紛れて、いつの間にか隣に立っていたタテワキ先生が静かにそう告げた。
頷くと、タテワキが指を鳴らす。
そこは武道館の中では無かった。どこかの街だ。
転校初日に見た記憶がある。クロノス学園があるユースという街だろう。
クロノス学園は全寮制で山の奥にあるので、街に足を伸ばしたことはない。
灰色の石畳と白い建物が美しい街の頭上に、それはいた。


「うそ!?ウィオプス!?」
「ヒィィィ・・・!」

 


声がした振り向くと、ジノとマリーもその場に居た。
先生に転移させられたのは自分だけだと思っていたのに、仲間が二人道連れになっていて困惑した顔をタテワキに向ける。

 


「君は守る対象がいたほうが迷いがなくなる。緊急事態だ。許せ。」
「・・・アテナの時のように、マナを放出させればいいんですか。」
「そうだ。」


メガネを外し魔導師の顔になったタテワキが構え、頭上にいるウィオプスを睨む。
遅れました、とレオンとリヒト、グランが転移して近くに並んだ。
遠くで人々が逃げ惑う悲鳴が聞こえる。
教員が市民を非難させているのが視界の端で窺える。
うるさいぐらい心臓が内側から打ち付けてくる。無意識に手を握って、震えを押さえつける。
フラッシュバックする悪夢が嫌でも押し寄せる。
黒焦げになって転がる生徒、狂乱の場、悲鳴が幾重にも重なり、アンナが――


「ルフェ!もしかして、ルフェが呼ばれたのはアレを倒すためなの?」
「わわわ、私じゃ、手伝えないけど!ヴァイオレットなら・・・!」
「僕もアレ相手には知恵を貸せないかもだけど、僕たち側に―」


下がれ、とリヒトが二人を引っ張って後ろに下がらせる。
レオンが大薙刀アセットを手にしながら横に並んだ。

 


「お前の力は俺が抑える。約束したろ?」
「私・・・また同じように出来るかわからない。」
「今回は俺もいるよ。高位魔導師の俺がね。」
「人を用なしみたいにいわないで下さいよセンセー。」
「ルフェ。君はこいつらと戦う為にクロノスに来たんだろ?君が友達といるためには、必要な仕事だ。」

 


首を回して大分遠くに行ってしまった友人二人を見る。
そうだ。
私は生かされたんだ。だからあの二人にも出会えた。
これから、まだあの二人と生きていたい・・・。
もう用済みだと処分されるその日まで。
ルフェは意を決し、マナを体中に巡回させた。

 


「タテワキ先生、あの時は必死で、どうやったかわからないんです。」
「マナを解き放つイメージだ。ほら、箒で飛んだ時のこと思い出して。

コントロールは俺とコルネリアス君でやる。蝶を思い出しなさい。」

 


手を組み、瞳を閉じる。
マナを完全に放出するのはまだ抵抗があって、だからこそマナの操作が必要な実技が苦手。
でも、怖がってる場合じゃない。
先生のアドバイス通り、前にマナを使って魔法具を蝶に変化させた時の事を思い出す。
箒を操って空を飛んだ、あの時自由を味わった感覚を。
そしてルフェから大分離れた場所にいたジノとマリーは、ルフェの体内から放たれる少し濁った白い光を見た。
爆発するように辺りに放出された光の塊が、真っ直ぐとウィオプスに飛んでいき、

光に当たったウィオプスは悲鳴のような甲高い音を出して、空気の中に消えていった。
静寂が訪れる。
恐怖に支配されていた悲鳴が止んで、リヒトの拘束が緩まったので2人はルフェの元に走った。
膝から崩れ落ちたルフェを、タテワキ先生が支え、主席も膝を突いて顔を覗き込む。

額に大量の汗をかいているルフェは、震えるまぶたをそっと開いた。

 


「先生、ウィオプスは・・・。」
「無事退けた。君のおかげだ。」
「よかった・・・。」

 


普段と様子が違うタテワキ先生が主席に言って現場を指揮するよう伝えた。
話ながら、ルフェの額に手を当てる。
手が薄緑に光ってるから、治癒魔法を使っているのだろう。
マリーが石畳に膝をついてルフェの手をとった。
ジノも隣に並んで顔を覗き込む。
ルフェの顔色は悪く、唇が震えている。目尻が濡れているから、泣いていたのだろう。

 


「タテワキ先生、ルフェは一体、何をさせられているんですか。」
「・・・ウィオプス退治だよ。この子は、生まれながらにして不自由だ。

クロノス学園もウィオプスを倒す戦士に育てるために、魔法院が用意した鳥籠さ。」
「そんな・・・。ルフェは、」
「わかってる。この子に罪はない。けど、起きた事は事実だ。」
「生きるために人の許しがいるなんて・・・!」

 


悔しげな顔を見せたジノに、タテワキ先生は口角を少しだけ上げて微笑んでみせた。

 


「この子も、幸せになるために生まれてきた。俺達は、この子に笑って過ごして欲しいと思っている。君たちも、協力して欲しい。」
「言われなくても、そのつもりです!」
「わわわ、私達、友達・・・なので!!!」

 


そっか、と今度は明確に笑った先生は、ポケットに入れておいた眼鏡をかけ直した。
ルフェが目を開いた。
ジノとマリーの顔が視界いっぱいに入り込んできた。

 


「ルフェ~~~~!!!」

 


我慢出来ずにマリーが抱きついてきた。
あとはよろしく、とタテワキ先生がルフェを任せ陣頭指揮に回り、リヒトが合流した。


「無事か、お前ら。」
「大丈夫です。」
「ルフェ、立てる?」
「平気。」

 


マリーの手を借りて立ち上がる。
まだ足下はふらふらしてたが、治癒魔法のおかげか、意識ははっきりしている。

 


「リヒト、被害は?」
「怪我人ゼロだ。まだ戦闘態勢前だったのが幸いだった。出現したのも1体だけだったし。」
「そう。よかった。」
「転移魔法の許可をもらった。お前らを送って―」
「嬢ちゃん!さっきマナを放ったの見たぜ!」

 


レオンが押さえていた市民が、こちらに向かって手を振ってきた。

 


「街を守ってくれてありがとよー!」
「え・・・?」
「ほらほら、おじさん下がって。こっから先は立ち入り禁止ですよー。」

 


レオンに押されながらも手を振る市民に、ルフェは頭を下げる。
ルフェは友人二人を振り返った。

 


「帰ったら、二人に聞いて欲しいことがある。」

 


ジノも、まだ泣き顔のマリーも頷いて
リヒトが指を鳴らすと、そこは学校の中だった。

 

 


お昼。
本校舎A棟側の食堂でルフェ達3人と、リヒトも加えて昼食を取っていた。
朝からアセットの合同授業、ウィオプスの襲撃など立て続けに起こり、
学校側からの事情聴取やらが終わりやっと終わったのが4限が終わる頃。もうお腹がペコペコだった。
ひょろっとした印象のジノも育ち盛りなので、山盛りのスパゲティとパン、サラダ、デザートのフルコースが目の前に並んでいる。

 


「本当に、ひどい話だね。」
「もう納得したことだよ。今こうしてご飯食べられるし。」
「ででで、でも、もし、ルフェがマナが扱えなかったり、暴走しちゃったら・・・・。」
「その時は軟禁生活逆戻りかなー?ね、リヒト。」
「そうだな。前回だって、マナが莫大すぎて殺せないって話あったし。」
「二人とも、食堂で野蛮な話やめてくれる・・・?」

 


貴族出身のマリーには刺激が強かったのか、スープを飲む手が止まっていた。

 


「さっきも言ったけど、本来なら地下牢で死ぬまで軟禁されてるはずだったんだよ。
でもこうして日の下で暮らせるし、友達とご飯食べられたり出来る。
それだけで私は幸せだよ?クロノスに来たのも、将来が決まってるのも受け入れてるし、院への就職決まってるなら安心でしょ?」
「そうかもだけど・・・・。」
「こいつは普通を知らないから、普通の感覚を持ってない。お前らが気にすることではないだろ。」

 


ジノがまだ何か言いたげな顔をしたが、ルフェ達がいるテーブルに一人の男子生徒が近づいてきた。
リヒトが一応警戒する。

 


「あの、イェーネさん・・・。」
「はい、なんでしょう。」
「さっき、親父から連絡きて・・・。俺の実家、ユースにあるんだ。ウィオプスが現れた真下。
あのままだったら実家が潰れてた。足の不自由な祖父が居たんだ。逃げ遅れてたかもしれない。
イェーネさんが退治してくれたって聞いた。だから、その・・・ありがとう。

君がいなかったら、魔法院の到着はもっと遅かったはずだから。」

 


緊張しているのか、しどろもどろで話す男子生徒は、言葉に詰まりながらも頭を下げた。

 


「本当にありがとう。」
「その言葉で、私が此処に来た意味が出来たよ。家は無事だった?」
「あ、ああ!レンガ一つ崩れてないって。」
「なら、良かった。」


またお辞儀をして去りかける男子生徒を、ジノが呼び止めて何かを告げていたが、ルフェには聞こえなかった。
代わりに、リヒトが問う。

 


「余計なことを。」
「噂は広まるのは早い。なら、沈静化も早いはずだ。彼には今の経験談をより多く語ってもらうことにしました。」
「お前、意外と戦略家だよな。」
「さっきのアセットの合同授業でのジノ、見せてあげたい。凄かったのよ、ジノ知将。」
「ほぉ。それは興味深い。」

 


午後、ジノとマリーは普通に授業に戻るよう指示されたが
ルフェはカウンセリングと身体検査を受けることとなり、授業不参加となった。
迎えに来たタテワキ先生と共に、学園長室へ向かう。
カウンセリングは学園長先生自ら行うらしい。

 


「さっきは悪かったね。友達巻き込んで。まさかウィオプスのが街の真上に出現するとは思わなくて。」
「緊急事態だというのは把握しました。先生の判断は間違ってないと思います。精神力の弱さ、おかげで補えました。」
「自分の弱いとこ、ちゃんと理解出来ていてよろしい。」

 

 

特別棟は、相変わらず静かで綺麗だった。
すっかり騒がしい校舎に慣れてしまった自分にも驚いた。
学園長室の扉をタテワキが開けると、学園長先生が優雅に紅茶を嗜んでいるところだった。
自分のデスクではなく、備え付けのソファーの上で。
座るよう言われ、学園長の前に腰掛ける。と、脇に控えていた秘書の人が紅茶を入れてくれた。

 


「タテワキ先生はコーヒーの方が良かったかしら?」
「お気遣いなく。」
「そう?じゃあ、ルフェ。少し話をしましょうか。ああ、緊張も警戒もしないでちょうだい?
叱ったりするわけないでしょ?貴方を無理矢理戦場に送ったは私よ。ユースの街に現れたんだもの。」
「あの、学園長先生。なぜあんな事態になったのですか?ウィオプスが街に入らないように結界を張っていたはずでは?」

 


コーヒーカップをソーサーに戻し、学園長先生は表情を引き締めた。

 


「そう。魔法院の境界警備隊が結界を張り、異空間からの転移に備えゲートの誘導灯を設置しているの。
この付近だと、3つ隣の廃村に誘導灯があって、ユースに出現するはずが無かった。
気づいた時にはゲートが開いてウィオプスがこちら側にやって来ていた。
院の警備隊の到着を待ってはいられず、貴方に頼りました。ごめんね、無理させて。」
「いえ。街を救えたことは・・・良かったと、思います。」

 


食堂でお礼を言ってくれた男子生徒の言葉を思い出す。
学園長先生は続けた。

 


「原因は調査中です。それより、マナを放出してみて体調に変化などはないかしら?」
「問題ありません。」
「前回より、出力を落としたと聞きました。自分で調節出来たのですか?」
「どう・・・でしょう?横にタテワキ先生とレオンがいたので、どうにかしてるれるという安心感が前よりあったからかもしれません。

それに、タテワキ先生に実技を習ってるので、ほんの少しだけですが、マナを調節するのがどういうことかわかってきました。
まだまだ・・・全然操れませんが・・・。」

 


最後に行く連れか細くなったルフェの声を慰めるように、タテワキが頭を撫でる。


「学園長、俺からも一つ質問。院の許可無しにルフェをかり出したせいで、この子にペナルティは?」
「あるわけないじゃない。あったとしても現場判断をした私に下るだけよ。」
「なら良かった。」
「現金な男ね・・・。話を戻しましょう。ルフェ、貴方、マナを放出した後かなりの疲労に襲われて倒れたでしょ?
その時の体の状態を教えてちょうだい。」
「そうですね・・・。一時的に空っぽになった感じがしました。」
「マナが?」
「おそらく。とっても疲れて眠くなりました。タテワキ先生が治癒魔法を体内に注入してくれていたので、眠らずに済みました。」
「他に、気になるとこは?」
「うーん・・・。特には・・・。あ、私じゃ無くて、ウィオプスなのですが。アテナで対峙したのより、なんていうか・・・。
弱かった気がします。驚異的じゃないというか、2度目に見たからでしょうか。」

 


顎に指を置いて学園長先生は思案したが、すぐルフェに向き直った。

 


「なにせよ、貴方に異変がなくてよかったわ。今回のことは本当に助かりました。
何か私に手伝えることや、困ったことがあったらいつでもいらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
「念のため、身体検査は受けてもらいますので、このまま保健室に行ってね。エメルに待機するよう言ってあるから。

タテワキ先生とはこの後話し合いがあるから借りるわね。」

 


はい、と紅茶の残りを飲んで退室した。
タテワキが前のめりになって口元を押さえた。ルフェといたときと表情はもう180度変わっている。

 


「仮説は・・・合っていたかもしれませんね。」
「ええ。この事実を知っているのは私と貴方、そして、メデッサ先生だけよ。というか、第一発見者はメデッサ先生だけど。」
「院には?」
「報告すれば、あの子は殺されるでしょうね。」
「殺せませんよ。」
「いや、心はいくらでも殺せます。もはや、あの子は太陽の暖かさを知ってしまったのだから。」
「ならあの子をあのまま地下深い牢屋で生かしておくべきだったと?」


指の隙間から漏れる殺意に、大げさにため息をついてみせる。


「そう竜すら殺しかけない目で怒らないでちょうだい。誰もそんなこと言ってないわよ。院には報告しません。」
「かといって、またウィオプスが出現すれば、ルフェを出動させろと言ってきますよ。」
「ゲート誘導をもっと強化してもらえるよう説得しましょう。被害ゼロの事実も交渉材料になりますし。」
「まだ不十分・・・でも、現状それしかありませんね。下手に動きすぎると勘の鋭い犬どもが騒ぎます。」
「メデッサ先生さえいっらしゃれば・・・。今、どちらを旅してるのやら。」

 

窓の外を眺める。
外には平和で穏やかな青空が広がっている。
この平和の中に、ずっと彼女をかくまってあげられればいいのに。

 


「メデッサ先生・・・。厄災はまだ続いているようですよ。」

 

エメル保険医による身体検査は念には念を入れて細部まで行われた。

もちろん性別が曖昧なので制服のまま。
お茶会にも誘われ逃げ切れなかったので、教室に戻った時には放課後になっていた。
一応今日は公休扱いにしてもらったが、授業の補習を受けなければ単位がもらえない。
朝のアセット授業以外は出席していない。何時間補習を受ければいいのやら。
教室では、ジノとマリーが箒を持って掃除をしていた。
そこで、自分が今日掃除当番であったと思い出した。

 


「ごめんなさい!私の代わりをしてくれてるのね。」
「いいんだよ、ルフェは休みなよ。大仕事終わって、学園長先生と話してきたりしたんだろ?」
「エルメさんに捕まって散々休んできたとこ。ありがとう、もう変わる。」
「3人でやれば、すぐ終わりますわよ。」

 


ルフェもモップをもって、床の掃除をする。
他に当番の生徒が居た気がするが、見事にサボりだろう。

 


「ルフェ・・・学園長先生に怒られたりとか、したんですか?」
「ううん。気遣ってくれたみたい。マナの放出は結構な肉体労働らしいから。」
「ウィオプスを退けるくらいだもんね。ルフェほんとすごいね。」
「凄いのはマナの量だけなんだよ。私1人じゃ操れないから。」
「わ、私も手伝う、から!ルフェが、倒れないように、操れる方法、見つけよう!」
「うん。そうだね。どうやらルフェはこんなことがある度かり出される存在らしいから、何かいい方法あるといいね。」


友人二人が、自分のために相談してくれてる光景に、胸が熱くなった。
だからついつい、モップを手放して二人に同時に抱きついてしまった。
男の子相手にはしたない、とアテナ女学院にいたら叱られていただろうが、

内から湧き上がる熱をどうしたらいいかわからなかったのだ。

 


「ありがとう・・・!」

 


もし、先ほどのウィオプス退治で失敗していたら、自分は此処にはいない。
周りが支えてくれてるから、私は生きて居られるー。
頑張ろう、と二人はルフェの背中を優しく撫でてくれたので、溢れ出る涙を我慢しなかった。

​今まで人前で泣いたことなど無かったのに、クロノス学園に来て、泣くのは二度目だ。

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