♥♦♠♣5
「えー・・・。面倒くさ・・・、はいはい、分かったよー。」
耳のインカムから手を下ろした金髪の男は、隣にいた長めの水色髪をした美青年を後ろから抱き締めた。
「今日はちゃんと仕事しろって、怒られたよー。」
「ナビさんに?」
「シガウラさん。なんか、今日はハートがイヤにやる気出してるんだってさ。
ハートが死ぬもの狂いで狙ってるなら凄い宝だろうから、ゲットしてこいって。」
「じゃあ行きましょうか、イツキ兄さん。」
「めんどくさい・・・。」
「後でシガウラさんに長い説教されるのと、どっちがいいの?」
「分かったよ・・・。可愛いソウタに怪我させたくないしね。俺達の近くにハートの三人がいるらしいよー。足止めに行こう。」
ナビに指示を仰ぎ、二人は迷路を走りだした。
黒い壁を左右に折れていくと、ハートの姿が見えた。
イツキは腰のホルダーから金に装飾された銃を向けた。
先頭にいた長い三編みでメイド姿の女性が銃声に気づき、後ろにいた少年を抱き後ろに飛ぶ。
「凄いねー。完璧不意打ち成功したと思ったのに。」
金髪の男と後ろにいた青年がゆっくり近づいてくる間、メイドが仲間に告げる。
「オニキス様、此処は私が。マヒト様を宜しくお願いします。」
「アカネ、」
「お行き下さいませ。心はマヒト様と共におります。」
「怪我したら許さないからな!」
「はい。」
嬉しそうに微笑む彼女を残し、二人は走って右の角を曲がって行った。
「あちゃー。二人逃げられちゃったよ。」
「面倒だから逃がしたくせに。」
「流石ソウタ!良く分かってるー。」
男達はメイドの前に並んだ。
メイドは、スカートの前で両手を合わせた。
「<スペードの9>、<スペードの6>でしたね。ご兄弟ですの?」
「そうだよー。<ハートの2>」
「・・・本当にご兄弟?」
「確かに似てないけどね。俺はイツキ、弟はソウタ。よろしくね。」
「私はフランソワーズでございます。」
「真名を名乗ってないのか。」
「はい。出来れば長く手合わせ願いたいのですが、急いでおりますので、早急に終わらせます。ご了承を。」
言葉ばかりの謝罪を述べたと同時、メイドは地面を蹴り低姿勢のままイツキに迫った。
余りの早さに、銃を構えた時には間合いに入られ、下から手首ごと銃を弾かれた。
イツキは2丁拳銃使いなので、左に下げたホルダーからも銃を取りだそうとするも、器用に半身を捻り右肘でイツキの腹部を弾く。
およそ女性の腕力とは思えない衝撃で、彼の体は後ろの壁に飛ばされる。
ただ、衝撃は無かった。
「油断しちゃだめですよ、兄さん。」
壁とイツキの間に、水のクッションのようなものが挟まっており、衝撃を全て吸収してくれたようだ。
ずっとイツキの斜め後ろで大人しくしていたソウタの手の平から、水のムチが伸び、
床に落ちる銃2丁を拾いあげると、ソウタの隣に並んだイツキに渡した。
「助かった。さすがソウちゃん。頼もしいね~。」
「あの人、恐ろしく強いよ。」
「瞬殺宣言されちゃったしね。久々に楽しめそうだ、本気出しちゃおっかなー。」
ソウタが右手で空をきると、大気に触れた箇所に小さな水球が現れ、アカネに襲いかかった。
彼女は飛んで避けるも、水球が当たった床は小さな穴が空いていた。
<スペードの6>ソウタは水のリセル所持者。
水を出し好きに操るだけでなく、圧力をかけられるようだ。弾切れやブレがない分、弾丸より恐ろしい。
アカネが水から避けると、避けた場所にイツキの弾丸が降ってきて、中々近づけない。
防戦一方になってしまったアカネの真後ろに、水の塊が現れた。
一瞬で細かく分散し、アラレの如く降り注ぐ。
地面を転がり咄嗟に避けたが、長いスカートに幾つか穴が開いた。
「降参してくれませんか。女性を穴だらけにするのは気が進みません。」
「お気遣い感謝いたしますが、わたくしを女と見ない方が宜しいかと。主が待っておりますので。」
いきなり、女性が視界から消えた。
その姿を探している最中、イツキが弟の名を叫ぶも空しく、彼は首裏を叩かれその場に倒れた。
「クッソ・・・!」
初めて苦い顔を浮かべたイツキが拳銃の引金を交互に引く。
しかし、再び彼女は消え、確認出来た時にはトリガーの間に金属の板のようなものを挟まれ、眉間に短剣をつきつけられていた。
「凄いね・・・。君は・・・どんなリセルを・・・。」
「いえ、わたくしはリセルなど所持しておりません。全て個人の力でございます。」
「マジで・・・?」
「先程申しましたように、急いでおりますので失礼したいのですが。」
「ああ、どうぞ。弟を置いて、追うようなことは出来ないからね。」
短剣を下ろしたメイドは、特に感情のない横目で、告げた。
「偽りの記憶で、貴方は満足なのですか。違和感を無視し、真実を知ろうとなさらない。」
「・・・それって、どういう・・・。」
何も答えず、メイド姿の女性は踵を返して仲間が去った方向へ去って行った。
*
「大丈夫か、リディア。」
「ハァ、ハァ・・・平気。」
息が荒い少年に向かい黒衣の男は声を掛ける。
デッキの迷路に入ってから走り続けているせいで、あまり体力がないリディアは早くも呼吸を乱していた。
それでも、足を止める事は無い。
リディアが焦るのも無理はない。
開始直後、イヤホンから聞こえたナビであるグラス発言のせいだ。
『こんな時に限って・・・!』
「どうしたの?」
『クラウンシークだ!宝の場所が記されていない!』
毎回各スートに配信される地図には、宝の場所には王冠のマークが載っているのだが、ごく稀に、マークを記載しないゲームがある。
クラウンシークと呼ばれ、迷路を攻略しながら自力で宝を探し出すのだ。
リディアの焦る様子を悟り、マイクの向こうでグラスは息を整えた。
『過去のデータは頭に入っている。予想される宝の場所を指示するが、ポイントは複数あるので急いでくれ。』
グラスは普段やる気をあまり見せないが、頭の回転は素晴らしく、分析力、推理力、決断力もある優秀なナビだ。
敵の札達が通過した場所も全て把握出来るので、クラウンシークだろうと、さして問題はない。
一抹の不安は、敵の誰かが偶然宝のある場所を通過してしまうこと。
アカネと別れた二人は既に二カ所、グラスが予想したポイントを通過したが、どちらも外れだった。
もうデッキの中腹にたどり着いた頃だろう。
グラスの指示で左の角を曲がった時、通路を長身の男が立ち塞いでおり、二人は足を止める。
「アオガミ!!」
「どうした<ハートのキング>。今日は真面目に働いているらしいじゃないか。」
「煩い!其処をどけ!」
「お前達を足止めするよう指示されている。」
アオガミが身構えた。
厄介な奴に当たってしまったとリディアは唇を噛む。何時もは自分が彼を足止めしているのに―・・・。
認めるのは悔しが、力量は遥かに違う。
自分達が必死なせいで、周りのスートの動きまで活発化させてしまい、かなりの警戒をされているようで、簡単には通してくれないだろう。
ユタカを召喚しようかと眼帯に指を当てた時、急に黒いものに包まれ、気がついた時には、アオガミの背後に移動していた。
「オニキス!」
「人型でいいからユタカを出せ。」
リディアが呼ぶ前に、炎と共にユタカが勝手に現れた。
「主を抱えて走れ。」
「はいよー。」
軽々と少年を抱き上げた赤髪は、言われた通り走り出す。リディアがオニキスを振り返った時には、アオガミと組み手を始めていた。
ユタカが角を曲がり、二人の姿は見えなくなる。
「ユタカ、下ろして!」
「もう体力限界でしょー?」
「自分で走れるから!」
「俺を宿してるせいで体力が女の子以下なんだから我慢しなさい。この方が早い。」
抱えられながらユタカの足元を見ると、膝から下に炎を纏わせていた。
走っているというより、地面を滑っているみたいだ。
子供みたいに抱きかかえられている姿を敵に見られたくなどなかったが、今はそんな事気にしている場合ではない。
グラスからの指示をユタカに伝えながら進む。
そのまましばらくデッキを進んでいると、隣で黒いモヤが並走しだし、やがてオニキスとアカネ-ゲーム名フランソワーズの姿になった。
「無事だった!」
「当たり前だ。隙を見て転移した。フランソワーズも追いついたので戦線離脱だ。」
「お待たせして申し訳ありません、リディア様。」
「よかった・・・。」
「ただ、悪い知らせがある。ツジナミが動き出したようだ。」
「ゲーム中に!?・・・いや、ゲーム中だからか。」
耳の通信機を押す。
「グラス、現状は?大丈夫?」
『ああ、ツジナミさん?問題ないよ、ゲームに集中しなさい。次の角を左・・・たら、右に・・・ジジッ』
「グラス!?」
『いけな・・・。ノイズが、・・・ジャミング・・・てる。』
「もういいから逃げてグラス!」
『左、右、3つ・・・を左。それ・・・最後・・・だ。リ・・・ア、どうか願いを―・・・。』
プチッと嫌な音を最後に通信は切れた。
「・・・ユタカ、左、右、3つ目の分岐を左。」
「ラジャー!」
「リディア様?」
「二人とも、今すぐリタイアしてスートに戻って。グラスが危ない。」
「わたくしはお側におります。」
「次が最後のクラウンだって言ってた。ユタカがいれば大丈夫。ツジナミさんはとにかく部下が多くて野蛮だ。
非戦闘員のグラスに傷一つつけさせるわけにはいかないよ・・・。それからダイヤの二人もお願い。」
青くなりだしたリディアの顔を見て、アカネは仕方なく頷いた。
リディアにとってグラスがいかに大事な存在であるか、彼女はよく知っている。
黒衣のオニキスも渋々だが承諾した。
「おい火トカゲ。リディアに怪我でもさせたら魂を掻き消すぞ。」
「誰にモノ言ってんのさ!言われずともお姫様は俺が守るっての!」
「リディ・・・マヒト様、どうかご無理なさらずに。」
「二人もね。」
「グラスを連れたらすぐ戻る。」
後方を走っていた二人は向きを180度変え別れた。
ユタカに抱えられたままリディアは天井の暗闇を睨みつけた。
この焦りと苛立ちを何処にぶつければいいかわからなかったからだ。
ただ、冷静さは残っている。
今は、皆が作ってくれたチャンスを途絶えさせるわけにはいかない。
何としてでも、クラウンを手にしなければ―・・・。
ユタカが最後の角を曲がる、するとそこは天井のない小さな部屋みたいな空間になっていた。
出入口は一つで、正方形の空間は中央が一段高くなっており、台座に四角い木箱が置いてあった。
手の平には余るが、両手で抱えるには幾分小さい。
それはクラウン―宝であり、リディアがずっと探し続けていたもの。
「ユタカ、出入口見張ってて。」
「ごゆっくり、マスター。」
ユタカが小部屋から出て行き、リディアは木箱の前に立ち、迷いなくその錠部分に触れた。
指先が僅かに触れただけで木箱の蓋が勢い良く勝手に開き、薄緑色の光が溢れ天井へ伸びる。
光の欠片が時たま地面に転がりリディアの靴先にぶつかる。
光が徐々に収まり始めると、光柱の中に、少女の姿が浮かび始めた。
輪郭だけ際立つ全身は薄水色から薄緑で、立体映像を見てるみたいだった。
細く繊細な長い髪が背中に流れ、幾重にも重なった複雑な衣装を纏う、まだあどけない顔の少女。
ゆっくり瞳を開けた少女が、リディアに焦点を合わせる。
「惑い人。強い意思を感じます。」
「君が、インフィニティ?もう少し大人だと聞いてたよ。」
「私に実態はありません。対話の相手の心により姿は様々に映ります。」
「時間がない。早速聞きたいことがある。」
「どうぞ。私は万物全てを司るモノ。如何なる出来事も把握しております。」
「・・・僕の世界はどうなった。僕の母さんは、無事なのか。」
カラカラになった口で必死に問うリディアを、虚ろな瞳で少女は見つめた。
「時空の歪みにより、この世界に閉じ込められた哀れな子供とその従者。答えましょう。」
インフィニティと呼ばれる少女はそっと服の袖同士を合わせた。
「貴方が生まれ育った世界は、物理的には存在しますが、歴史及び生物的には滅びました。」
「え・・・なん、て。」
「小さな火種は世界に広がり、戦は人種・宗教・生物、ありとあらゆる全てを巻き込み、向こうの時間にして三年で世界は滅びました。
動物、昆虫に限らず植物も含め全滅。生き物は何一つ残ってはおりません。」
「じゃあ・・・・・・、母さんは。」
「反乱の折り、亡くなりました。」
全身が震え、膝から倒れこみそうになるのをなんとか堪えた。
内蔵が急激に質量を増したのではないか。
心臓が痛い。
唯一の希望が、たった今消えた。
「君は正しい、んだよ、な・・・」
「はい。」
「本当は、帰る方法を・・・聞こうと思ってたんだ・・・。僕がいた世界に・・・」
「残念ながらマヒト。あれは事故だったのです。故意で起こした事柄でない以上、再び別の時間軸を結ぶ手段はありません。
お母様が無事だっとしても、貴方の運命はこの世界と複雑に絡まってしまっています。」
「時間を戻したりは・・・。」
「私は起きている事実、起きた事実を知る事が出来るだけ。」
弱々しく口から息を漏らしたマヒトの目の前が歪んだ。
それは比喩でも幻覚でもなかった。
視界の時空に波紋が現れ、突然若い男が姿を表した。
ダイヤを模した眼帯を左目にはめ、茶の髪をした男は、インフィニティに一目もくれずリディアの姿を確認すると、
地面に足をつけたと同時床を蹴ってリディアに迫った。
「ぐわわわわぁぁぁああああ!!」
男が右腕を伸ばしリディアの眼帯がある右目に手をかざした瞬間、彼が悲鳴を上げた。
今度こそ膝をつき、地面に崩れる。
尚も男は右目に手をかざしていた。
「精霊核を渡してもらおう。」
強烈な痛みに襲われながらリディアは、この男がダイヤの人間で、既に召喚鬼と契約していながらも、
彼の火竜―召喚獣最強と呼ばれるユタカを狙っていると気付く。
左から炎の固まりが飛んできて、ダイヤの男が後ろに飛んで避けた。リディアもユタカに抱き抱えられ後ろに避難させられる。
いつの間にかインフィニティは姿を消していた。
「マヒトちゃん大丈夫!!?」
「平気・・・。防壁は複雑にしてあるから・・・。」
「よくも俺のマヒトちゃんに・・・。」
怒りに体を震わせて立ち上がり、両手に炎を纏った。
召喚獣の強烈なプレッシャーを受けながらも冷静な態度を崩さない男は、何かを呟いた。
すると、彼の横に肌も髪も真っ白で、真っ直ぐな布をくっつけたみたいな不思議な服を来た女性が現れた。
「ゲッ!雪籠女!」
「あの召喚鬼、知ってるの?」
「別名氷の女王で、氷雪系。召喚鬼の中じゃ最強。実力は俺とほぼ互角」
「何を申すか火トカゲ。妾の方が実力は上じゃ。」
重みのある女性型召喚鬼の声に、ユタカの眉根が寄る。
「フフ。貴様、主を抱えて逃げる手筈を考えておるのじゃろう。無駄じゃ。」
リディアはチラリと出入口を見た。
小さな出口は、分厚い氷で塞がれていた。
ダイヤの男の手に、細身のロングソードが握られていた。剣は氷で出来ていた。
「雪籠女、頼む。」
「御意。」
美しい氷の女王が長い裾を引きずりながら一歩前に出た。
「マヒトちゃん、結界解除出来そう?」
「ごめん・・・。さっき揺さぶられたせいで活力不足。」
「なら、このままやってみるかー。マヒトちゃんは動かないで。」
「ホント、ごめん・・・。」
「気にしないで。必ず守る。」
ユタカも歩を進め、氷の女王と対峙する。
二人は言葉を一切交さず、いきなり己の力を相手にぶつけた。
ユタカの炎と、氷の女王―雪籠女の手から氷の粒が混じる雪が噴出される。
相反する火と氷がぶつかり、空中でせめぎ合う。
「笑えるのぉ、火トカゲの分際で!貴様はもう誰も守れん!前の主を殺した罪深き竜め!」
「っ・・・うるさい!」
火の勢いが強まる。
一方リディアは、気配を感じ腰に差した短いレイピアを抜いた。
頭上から襲いかかる氷の剣をギリギリで受けとめる事に成功した。
男は、感情のない顔で彼を見下ろす。
「反応はいいんだな。」
「こうして会うのは初めてだな、<ダイヤのエース>。名はアイザーだったか。」
「そうだ。」
「モモナ達を逃がした理由は、まさか召喚士狩りをするためか?」
「やはり君は真意に気づいてくれたね・・・。二人を保護してくれてありがとう。
だが、俺は君が宿す炎の騎士が欲しいだけだ。召喚獣最強の火竜をね。」
リディアは眉をしかめた。
「あんたは、もう最強の召喚鬼宿してるじゃないか。まさか捨てるのか?」
「両方大事にするよ。」
「バカな!不可能だ!そんなことしたら―」
せめぎあっていた氷の刃がふっと力を抜いたので、リディアが油断した隙に刃が彼の右肩を突く。
本能で肩を引いたので風穴が開くのは免れたが、服と皮膚を切られリディアが悲鳴を上げる。
ただのかすり傷であるはずなのに、傷口がヒリヒリと痛み血管が暴れだしたみたいに全身に何かが走る。
「グハッ・・・アアッ!」
「雪籠女が作った刃には氷の粒が混ぜてあってね。粒が体内に入るということは、ガラスの欠片が内部を傷つけてるような痛みが走る。
でも安心して。痛みは氷の冷たさによるもので、実際傷はついてないから。」
片腕で体を支え、地面に倒れのた打ち回りたいのを必死に堪えるリディアの前に、剣を脇に置いたアイザーが片膝をつく。
「精霊核は貰うよ。痛むけど我慢してくれ。」
「やめ・・・ろ・・・。」
ハート型の眼帯を剥がし、再びアイザーがリディアの右目に手をかざす。
リディアの絶叫と共にアイザーの手から水色の光が漏れ、色の無いリディアの瞳から小さな光る粒が現れ始めた。
視界の端で高い炎の柱が見えたが、光る粒が瞳から完全に矧がれた瞬間炎も、ユタカも消えた。
リディアの右目から血の涙が流れ、核はアイザーの手に握られた。
「核は奪った。さぁ、契約解除をしてくれ。」
「イヤ、だ・・・。」
「頼む。」
「断る!」
「この世界の人間じゃないなら、その力はいらないはずだ。こだわる理由もないだろ?」
「!?なんで・・・知って・・・。」
アイザーは瞬きの間だけ眉を歪めたが、すぐ凛々しい顔に戻り脇に置いた剣を再び握る。リディアの首を掴み、切っ先を右目に向けた。
「精霊と呼ばれる存在との契約は視力を対価に行われる。契約部位である眼球を失えば・・・。」
「・・・。」
「すまない。何を犠牲にしても、願いを叶えると決めたんだ。」
剣が引かれ、降り下ろされる。
――刃が眼を貫く寸前、二人の真横にあった壁に穴が開き大男が入ってきた。
サングラスをしたその男は、咄嗟に状況を理解し、身を低くすると、首を捕まれ右目から血を流す少年を奪取し奥の壁を壊し出て行った。
沈黙の後、一連の流れを黙って見ていたアイザーは立ち上がり、氷の剣を消した。
斜め後ろに氷の女王が立つ。
「わざと逃がしたな、主よ。やはり傷つけるのは嫌か。」
「引きこもりで扱いの難しい火竜と契約した子だ。きっと優しい子なんだろう。核は手に入れた。これで、良かったんだ・・・。」
握った手を開くと、光る粒が手の平に浮かんでいた。
白金だった粒は、やがて赤く色を変えた。
「フフフ、火竜は怒っておるのぉ。傷付いた主を見て油断したせいじゃ。」
その時、ゲーム終了のブザーがデッキ全体に響き渡った。
「全て見ていたようだな、ジョーカーは。俺より性格悪い・・・。行くぞ、雪籠女。」
「御意。」
二人の影は吹雪に包まれ消えた。