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♥♦♠♣7

 

ダイヤ
<インモラリティ・オブ・クイーン>

 


寒々しい司令室に、長いソファーが運びこまれ、がたいのいい中年男性が両手両足を広げ目線より高い位置にあるモニターを見つめていた。
白く品のいい高級ソファーは灰色ばかりで無機質な空間に全く溶け込めていない。
司令室の扉が開いた。


「あらやだ、談話室のソファー運び込んだの?かなり浮いてるじゃない。」
「楽チンだからよぉ。」
「男ってこれだから・・・。」


呆れたため息を漏らしながら、今司令室に入ってきた妖艶な女性―クイーンはお気に入りの煙管をくわえながら

ソファーの脇に立ち同じくモニターを見つめる。
立ち上がっている幾つかのモニターには、リアルタイムの映像が流れていた。


「アナタの手下が中継してるの?」
「おうよ。物をコピー出来る奴がカメラをコピーして予算削減だぜ。」
「便利なリセルもあるのね。」
「本当は俺も前線で暴れてぇんだけどよ、大人しく指揮してろって副官様に釘刺されてんの。」
「そういえば腰巾着クンいないわね。」
「アイツは心配性だからな。あっちこっち手を施してんのさ。例えば、ホレ。」


男がソファーの背もたれに掛けていた右手を下ろしてモニターをいじる。
最前にとあるモニターを移し、そこにはある場所で灰色の分厚い壁相手に奮闘する男達の姿が見える。


「文字通りスペードの鉄壁って感じ。手に入れた設計図にあんな防壁あったかしら?突然現れたんでしょ?」
「緊急時に地中から出現するシステムで、前司令塔がこっそり作ってたんだとよ~。」


高さ4メートル、厚さ2メートルはありそうな鉄の巨人はマシンガンや火炎放射器を使っても

表面を焦がすのが精一杯で小さな穴すら空けられずにいる。
カギ爪付きロープで登ろうとしても、防壁の上で暴れているスペードの少年が侵入と攻略を試みる男達を蹴散らしていく。
ミルクティ色の髪に綺麗な顔をしてるくせに、残忍な笑顔が美貌を影らせている。



「ああ、あれが<スペードの10>ね。いつもゲーム中暴れてるっていう。」
「そうみてぇだな。」
「で、どうするのリチャード様。」
「おいおい。それって2世と3世じゃ天と地程違うぞ。どっちだよ。」
「さぁ~。」


唇をつり上げ意味ありげに微笑むクイーンは煙管をくわえ紫煙を吐いた。


「というか、アナタみたいな人でも本読むのね。」
「心外だなクイーンさんよぉ~。昔ちょっと読まされてな。」
「シェイクスピアを?」
「“あなたは少し落ち着いてモノを考えることを覚えなさい”ってね。」
「ふーん。アナタはちゃんとオフィーリアを愛していたハムレットだったのね。」


男―ツジナミはソファーの背もたれに頭を全部預けることでクイーンを見上げた。


「恐ろしい人だねクイーンさん。あんたがシェイクスピアの影武者だったんじゃねぇの?」
「残念ながら、アタシは悲劇が好きじゃないの。」
「すんなり俺達についた人のセリフにゃ聞こえんね。」
「フフフ。無駄な争いを避けるために同盟を受け入れただけじゃない。ダイヤの司令塔は寝込んでるから。」
「そういや、その司令塔とやらは大丈夫かい。」
「命に別状はないらしいわ。」
「あんな状況、正気の沙汰じゃねぇけどな~。看病に人出貸そうか?」
「誰とも会いたがらないのよ。」
「アンタにもか。」
「当たり前じゃない?」


不適な笑みを宿し腕を組む。
ツジナミも頭を戻しモニターに目を戻す。


「クラブの居住区にも透明な防壁があって侵入不可能。こりゃ諦めてスペードに全力投球するっきゃねぇか。」
「まだ本気を隠してるの?」
「あれよ。秘密兵器は最後までとっておかねぇとな。まだまだ第一幕だぜ?」
「それは楽しみね。」


モニターを見つめたまま、ツジナミの顔が引き締まり声だけクイーンに投げ掛ける。


「・・・アンタの望みはなんだい、クイーン。」
「そんな大層なものはないわ。アタシは、退屈が紛れればそれでいいの。・・・それだけでいいのよ――。」


再び、クイーンが煙管をくわえ紫煙を、今度はゆっくりと吐き出した。
隠れた本音や感情さえも、吐き出してしまおうとするように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アオガミことタカヒトが過去に偶然見つけ、それ以来隠れ家としている廃スートの居住区は、左右シンメトリーの造りだった。
三階立てで長い廊下が続き、無数の扉が並ぶ。


「ハートの居住棟と全く同じ造りだ、此処。」
「そうなのか?」


傷が治りベッドから出れるようになったリディア―マヒトはジッとしていられるわけもなく、まずは運び困れた廃スートを見て回ることにした。
暇だったタカヒトも案内のために後に続いたが、その必要はなかった。


「ハートはもっと横幅があって、4階があるけど・・・。扉のデザインとか、渡り廊下の数とか一緒。」
「俺が知る限り、居住区のデザインは独自性を重視して作られてる。ダイヤは貴族屋敷風、スペードは遊技室がテーマとか言ってたな。」
「それもジョーカー時代の知識?」
「まあな。」


とりあえず自分の目で隅から隅まで確認したい、とマヒトが言うのでタカヒトも頷き廊下を適当に歩き出す。


「第一、なんでタカヒトは此処を知ってるの?」
「執行部時代、怪我をしてさ迷ってたら偶然見つけた。地図上に記されてもないし、

ジョーカー達―兎やら猫―が何も伝えてなかった場所だ。特別なスートなのかと思ったが、既に人はいなかった。」
「昔からスートは4つだけだと思ってたよ。」
「いや、昔は無数あったらしい。それが徐々に絞られ今の数になった。」
「此処にいた人たちは?」
「わからん。今回みたいな事態が起きて、何処かに吸収されたんじゃないか?俺が見つけた時荒れた様子は一切なかった。」
「埃っぽくもないけど、タカヒト掃除してるの?」
「いや。俺も不思議なんだ・・・。もう数年経つというのに、どの部屋も埃が積もらないし、ガス水道電気も繋がったままだ。」
「・・・気味悪いね。幽霊と同居してる気分。でもタカヒトは気味悪がらず、スペードに馴染めない時は此処にくるわけだ?」
「・・・。」
「アハハ。」


茶化すマヒトに、苦い顔をして視線を遠くに逃がす彼が、おかしくて笑ってしまう。
ちなみにマヒトが寝かされていたのはタカヒトが気に入って使ってた部屋で、家具などの趣味がいいから、とのことだった。
確かに各部屋はそれぞれ趣味趣向が違う。女性が多いスートだったのか、可愛らしいインテリアがよく見られる気がする。
3階を見終わり、2階へ降りる。
3階とほぼ同じで部屋がいくつも並んでいるだけだが、真ん中辺りに談話室が設けられている。


「聞いてなかったけど、このスート名前はなんだったの?」
「インバーテッド・トライアングル。」
「逆三角形?・・・その長い名前が今残ってなくて良かったよ。呼びづらい。」
「確かにな。」


最後に階段で1階に下りた。
ハートと同じように1階には食堂などの共有スペースが並んでいる。


「一回り小さくしたハートって感じだな~。ハートよりアットホームな印象だけど。」
「落ち着いたら調べてみるか。」
「・・・何か、新しい情報きたか?」
「いや・・・。まだ情報屋が帰ってこない。混乱が続いてるのかもな。」


一度青い目を見せたからか、もうサングラスをしてない目で茶髪の少年を見下ろす。


「僕は大丈夫だよ。あんまり心配してないから。冷静になってよくよく考えれば、アカネとオニキスはかなり強いし臨機応変にやってる。

居場所さえわかれば、すぐ会える。」


強がってそう言ってはいるが、瞳が揺れているのにめざとく気付いたタカヒトは乱暴に髪を撫でる。


「ちょっと・・・!」
「フン。」
「・・・あ、そういえば、聞きたいことあるんだけど。」
「何だ。」
「どうしてスペードだけ、ジャックじゃなくてナイトなの?」


スートの役名はトランプというカードからとっているらしく、11番は<ジャック>の名だが、スペードだけは<ナイト>と共通で呼ぶ。


「じいさんの受け売りだかな―・・・、スートのマークにはそれぞれ意味がある。

ハートは聖杯、ダイヤは護符、クラブは槍、そしてスペードは騎士。」
「へぇ~、初耳。」
「数字にも意味があって、ジャックは召使。ただ騎士であるスペードならば、召使ではなくナイトの呼び名がいいだろうと、

じいさんが勝手に決めて、ジョーカーに伝達させたらしい。」
「えっ、スートの司令塔がそんな事出来るの!?しかもジョーカーが承認したの!?」
「お前もじいさんに会ってみればわかる・・・。あのじいさんは言葉じゃいい表せん。」
「なんか、凄そうな人だね。」
「頑固じじぃに変わりないがな―・・・。前に―――」


言葉が途絶え、急にタカヒトが警戒心を露にしだした。
眉間が寄り表情も険しくなる。


「どうしたの?」
「・・・音がする。こっちだ、」


1階廊下を小走りで移動し、何もない壁の前で止まる。
マヒトには何も感じない。
召喚獣がいれば少しは感知出来たのだろうか。
やがて、タカヒトが身構えマヒトをかばうように腕を伸ばした。
その時には、マヒトの耳にも微かな物音が届く。


「何か、近づいてる・・・?」


分厚いスートの壁の向こうから、削るような重低温が響く。
破壊音は徐々に、確実に近づき、ついに壁にヒビが入った。
ツジナミさんの残党が自分を探しにきたのだろうか。
だがこの場所の存在は誰も知らないハズだ。確信はないが。
ユタカもいなければレイピアも部屋だ。
肉弾戦でどこまで出来るだろうか。ただ、召喚獣による超治癒能力だけは残ってるのでタカオミの足は引っ張らずに行けそうだ。
亀裂が割れ、瓦礫の破片が落ち砂煙が広がる。
いつでも飛び出せるよう前足に重心をかける。


「ゲホッ、ゲホッ。結界張ってるのに砂煙入ってきたぁ。」
「足元に隙間出来てる。」
「ふわぁ!ホントだ。」


緊張感のない、聞き覚えのある声。
警戒を解くと、止んだ砂煙の奥から、見慣れた顔が、会いたくて仕方なかった顔があった。


「アカネ!コノエ!・・・マコト兄さんも!」
「マヒト様!!」


瓦礫を飛び越えメイド服姿の女性が駆け出しマヒトを胸に抱き寄せた。


「きっとご無事だと信じておりました!」
「アカネ・・・!良かった・・・!」


金髪美人との強い抱擁の次は、側に寄ってきた全身黒づくめの男に抱きく。


「コノエが必ずマコト兄さんを守ってくれると思ってたよ。」
「すまない。ユタカの気配が消えたせいで迎えが遅くなった。」
「おまけにツジナミ一派がウロチョロしてて動きづらかったしね。」


ハーティア司令塔は、腰に手を当てヘラヘラと笑って見せたが、破顔しそうになるのを堪えマヒトの髪を撫でた。


「元気そうでよかった。」


オニキス―本名コノエの後ろを覗くと、少し離れた場所で大男と申し訳無さそうにモジモジ立つ少女を見た。
オニキスから離れ二人に近づく。


「二人も無事で良かった。」
「あの・・・私達まで連れてきてもらっちゃって、ありがとうございます。」
「僕にお礼はいらないよ。アイザーからの預かりモノだし。」
「アイザーさんは・・・?」
「お互い状況説明が必要だね・・・。タカヒト、談話室使わせてもらうよ。」
「俺に許可はいらん。好きに使え。」
「タカヒト、さん・・・?名前そっくり。お兄さんですか。」


首を傾げるモモナに苦笑を返す。
サングラスをしてないせいか、この大男が<スペードのナイト>だと気づいてないようだ。
その辺りも説明しなければ。

 

 

 

​*


「マヒトが世話になったな。」
「別に。成り行きだ」


2階の談話室に移動した一行。
隣の給湯室で素早くお茶の支度をしたアカネがカップを並べてゆく間に、オニキスがタカヒトに礼を述べた。
無口同士の会話は中々素っ気ない。


「私からもお礼申し上げます。主から離れたばっかりに。」
「それは僕が命じたからじゃないか。」
「ユタカのバカはどうしたんだ。火トカゲを消し炭にせねば気が済まん。」


マヒトは、ゲームで起きた出来事を一同に説明した。
一番驚いていたのはモモナだ。


「アイザーさんは、どうしてそんなこと・・・。氷の女王がいるのに。」
「心当たりはあるけど・・・。ま、ユタカはいずれ奪還する。まだ契約解除はされてないからね。それより、皆はどうしてたの?」
「ツジナミの反乱にはグラスがいち早く気づき、俺達は直ぐ様スートを出た。」
「そしてモモナ様、クガ様の了承を得てマヒト様を探す事にしたのです。」
「モモナちゃんの能力は有りがたかったよ。敵に気付かれずあちこち歩けたし。」
「お役に立てて良かったです。」


グラス達は、モモナの結界を隠れみのにマヒトを探し続け、微かなマヒトの気配をオニキスが探知すると、

大胆にも、壁を直線上にこじ開けて付き進んできたらしい。


「モモナ様のお陰で瓦礫に埋もれる心配もありませんし、クガ様のリセルが破壊系で助かりました。」
「素手で壁をぶち破るメイドも中々なもんだがな・・・。」


感心というより恐怖と畏怖混じりでクガがそうもらし、マヒトは苦笑を浮かべた。
アカネはおっとりした見た目に反して、戦闘能力が異様に高い。しかもリセルじゃないのだ。
涼しい顔で持ち前の能力を発揮されて、悲しくならない男はいないだろう。


「この廃スートって周りに道ないの?」
「あったが、大回りになるから、まっすぐ来た。」
「オニキスって結構面倒くさがりだよね。」


紅茶カップを優雅に傾けグラスが呟き、マヒトを見る。


「というか、そもそも此処はどこだい?今廃スートって言った?」
「うん。昔廃止されたスートなんだって。」
「スートって4つだけだと思ってましたぁ。」
「僕も。ふるいにかけられて今の4つになったらしいよ。助けられた僕は、以前から此処を利用してたタカヒトに助けられてきたんだ。」
「まぁまぁ。すっかりアオガミ様と仲良くなられたようで、アカネは嬉しいですわ。」


にこにこと嬉しそうに言われ、顔を赤くしたマヒトはバツが悪そうに顔を背けた。
アカネには散々アオガミへの愚痴を吐いてた手前、ちょっと恥ずかしい。
タカヒトが悪人ではなかったことを後で説明せねばなるまい。
グラスが続ける。


「無事マヒトと合流出来たことだし、次はどうしようか。」
「ハハ、呑気な司令塔だな~。反乱はどうなったの?」
「余り興味ないね。マヒトが無事だったわけだし。」
「じゃあハーティアはどうなるの?」
「その辺りはジョーカーの判断だ。ツジナミ一派がハーティアなのか、はたまた此処に残った僕達なのか。

追い出されるようならツジナミ一派をどうにかしなきゃね、ゲームの参加資格はスートに所属して役をもらうことだ。」
「・・・僕はもうゲームに興味はないから、どっちでもいいかな。」
「・・・マヒト?」


ゲームの終盤で対面したインフィニティから聞いた事実を伝えた。
平然と紅茶を飲んでいたグラスでさえ、驚きを隠せない顔で、悲しげに笑うマヒトを見た。


「そんな・・・じゃあ、」
「全部、無くしちゃったみたいなんだ。過去も、家族も、生きる意味も。あ、でも全部じゃないかな。

僕には皆が居てくれるし。今後の目的は、探さなきゃだけど。」
「・・・。」


立ち上がったグラスは、座ったままのマヒトを抱き締めた。強く、強く。
安い慰めなど今は無意味と知っていて、それしか出来なかった。
マヒトはグラスの肩越しにアカネに目を向けた。


「ごめんね、アカネ。」
「アカネの居場所はマヒト様のお側。アカネの目的はマヒト様が笑顔でいること。私は十分幸せでございますから。」
「・・・ありがと。・・・マコト兄さん、僕大丈夫だよ?」
「君は強いな・・・。」


グラスがマヒトを離したので、改めて話を続ける。


「えっと、ごめんね二人とも。わけわかんない話を・・・。」
「そちらにも色々事情があるのは気づいていた。流れ者は気にするな。」
「とりあえず・・・、皆疲れただろうし、モモナシャワー浴びたいだろ?」
「そうですね。」
「此処、廃スートなのに電気水道使えるらしいから、適当な部屋で入ってきなよ。」


じゃあ、とモモナが立ち上がった時
談話室の真ん中に突然一匹の巨大黒猫が現れた。
二本足で立ち、チョッキを着た猫は優雅にマヒト達に一礼してみせた。
一同驚いて椅子から立ち上がる。


「ジョーカー!?」
「突然の来訪失礼致します。この度スート及びメンバーの変動ありましたのでご連絡にあがりました。」


ゲームを仕切るジョーカーが表れたということは、他のスートでも同様だろう。


「まず、<ハートのジャック>様、<ハートの4>様はハートから離脱され、<ダイヤのキング><ダイヤの4>へ役が移りました。」


ツジナミとその右腕ケイセイのことだ。
彼等はハーティアを壊滅させた後にダイヤと手を組んと聞いた。それに、

ツジナミがダイヤと手を組んでいたことは、グラスも前々から気づいていたことだ。


「次に、<ダイヤの2>様、<ダイヤのジャック>様は<ハートの8><ハートの9>へ役を移りました。」
「私たちが、ハート!?」


モモナが驚きの声を出す。


「そして<ハートフェル・ティアーズ>のスート居住棟は滞在困難のため廃棄とし、

このスート居住棟を新たな住まいと致します。よって司令室への通信を復帰いたしましたことをご報告申し上げます。」
「此処にいるメンバーがハートということかい?」
「左様でございます。」


グラスの問いかけに黒猫は大きくうなづいた。
ヒゲをぴくりと揺らし、黄色の大きな瞳で、猫はタカヒトを見た。


「最後に、<スペードのナイト>様は、<ハートのジャック>に役が移りました。」
「っ・・・!?」
「タカヒトも!?」


本人よりマヒトが反応し、詰め入るように黒猫に近付いた。


「待て!タカヒト・・・<スペードのナイト>は関係ないだろ!偶然彼が隠れ家にしてた此処に僕達が押し寄せただけだ。」
「これは決定事項でございます。ご了承下さい。」
「そんな・・・。」
「転居につきまして不具合ございましたら、司令室の通信よりご連絡下さいませ。それでは、次のゲームからのご活躍期待しております」


再び丁寧なお辞儀の後、マヒトの制止を無視して黒猫は消えた。
ジョーカーによる業務連絡は全スート同時に行われる。
つまり、タカヒトの所属が変わったことは仲間であるスペードの面々も聞いてしまっている。
所属が移るのは、裏切った時と決まっている。
悲しげな顔をタカヒトに向ける。
しかし、当の本人は普段と変わらぬ様子だった。


「ごめん・・・、きっと、僕を助けたせいでハートの一員になったと勘違いされたんだ・・・。」
「構わない。俺はブルーソードにこだわりも愛着もない。」
「でも、前司令に恩を返したいって―――」


眉が頼りなく下がる少年の髪を優しく撫でてやる。


「あのじいさんなら、この結果に喜んでる。人形に自我が生まれたのか、ってな。」
「タカヒト・・・。」
「これからは好きにやる。手始めに・・・お前の生きる目的を見つかる手助けでもするか。」


ふっ、と微笑を溢す。
滅多に笑わない男は、自分を安心させるために笑ってみせたのだと思い、マヒトは目に涙を浮かべながら、

つい数日前まで敵だった男に飛び付いた。


「・・・やっぱりご兄弟だったんですかね?」
「違うと思うぞ・・・。」

 

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