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オニキス第3研究所侵入から、7日後

​

 

「なんでアタシがこんな格好する必要あるんだよ。ネスタ家のパーティーだろ?」
「アルベルさんは既に我が家の住人ですわ。それに、パーティーに出なければご馳走にありつけませんよ。ローストビーフもピレーモもご用意してありますわ。」
「嫌だよこんなヒラヒラ。ズボンないの?」
「可愛いわよベルちゃん!ディアナちゃんにはなんて感謝したらいいか!」
「フフ。セウレラさんに喜んで頂けたようで、何よりです。」

 


アルベルは大きな鏡に映る自分を鬱陶しそうに睨み付けた。
無理矢理着せられた淡いピンク色のドレスは、フリルの裾が二の腕当たりで広がり、腰からふんわり膨らんだスカートは丈が膝より上。胸元も大きく開いて鎖骨が露出している。
頭には花とレースであしらったヘアアクセが乗せられていた。

 


「白とも迷いましたが、髪色が映える色合いを選んで正解でしたわね。」
「足がスースーして落ち着かねぇ。」
「もう!せっかく可愛いドレス選んでもらったんだから、口調も可愛くしてよ。」
「無理。」
「次はヘアメイクですわね。」
「もういいって!」
「フフ。せっかくですもの。色々やらせて頂きますわ。さ、お願いします。」

 


脇に控えていたメイドが、大きなメイク道具を抱えて進み出た。
今日のディアナは圧が強いというか、どこか凄みがありアルベルの拒否は聞いてくれなかった。
アルベルは抵抗することを諦め、大人しくドレッサーの椅子に腰掛けた。

 

 


*

 

 

​

陽が地平線に沈み、街の街灯が灯る頃。
ヴォルクの小高い丘に建つネスタ家にて盛大なパーティーが始まった。
100人は有に越す招待客はネスタ家本邸の1階にあるホールに集まっていた。
普段このホールは扉が閉ざされ静けさの主とでもいうように沈黙していたが、今夜は一転して賑やかで騒がしいぐらいだった。
天井から吊されたシャンデリアが特に豪勢であったが、どこか上品でレトロな雰囲気があった。作られた年代が古く歴史がある代物なのだろう。
シャンデリアの下では、招待客が煌びやかな衣装とアクセサリーで着飾り、出された料理や世間話を楽しんでいた。
老若男女、様々な顔があったが、誰も彼もパーティー慣れをしているのか堂々とした振る舞いと佇まい。
ホール窓側、等間隔に建つ古代宮殿のような装飾が掘られた柱の影で、アルベルはひっそり息を潜めていた。
 
 
(場違い過ぎる・・・。)
 
 
恰好だけは完璧だが、中身はただの田舎娘。ここに居る人間とは住む世界が違いすぎる。
雰囲気に呑まれ極力存在を消すことに専念する。
ディアナに出席を求められた手前、帰るわけにもいかないし、テーブルに並ぶ豪華な料理に口を付けず帰るのは嫌だった。しかし、群衆の合間を縫って皿を取る勇気がどうにも出ないでいた。
その時。ホール真正面にある二階に上がる横幅が広い階段に、青いドレスを纏ったディアナが現れた。
遠くからでもわかるぐらい、ディアナの美しさは磨き上げられていた。
美しい金の髪は丁寧に結われ、決して華美ではないシンプルなドレスが一国のお姫さまにも絵本に出てくる妖精にも思わせた。
派手さが目立つ美しさというよりも、月の光のように、静かで洗礼された美しさがあった。


 
『皆様、本日はお忙しい中お集まり下さいまして―』
 
 
挨拶が始まると、騒がしかった客人は口も手も止め小さき当主の言葉に耳を傾けた。
熱心に、食い入るように。
ネスタ家の影響力を、アルベルは再確認する。
国の歴史はほとんど知らないが、リカルドやシャルルからネスタ家の凄さは聞いた事がある。
まだ王様が国を治めていた時代、王様を支えていたのは元老院と呼ばれる五代名家。ネスタはその中心で、王族の一番の相談役だったらしい。
歴代の王様達が一番頼りにしていたのがネスタ家。
だからこそ、何百年も続いた王制時代が終わっても、ネスタの影響力は強い。
12歳の少女の、まだ幼く細い声の一言一句聞き逃さまいと、客人は必死に耳を済ましている。
話の内容はさっぱりでアルベルの理解範疇を超えていたが、堂々とした姿をしっかりと目に焼き付ける。
毎晩一緒にお風呂に入り、パジャマ姿でくだらない話をしていたディアナとは、まるで別人のように思えて、寂しさが胸にそっと落ちる。
挨拶の終盤になり、メイド達がドリンクを配ってゆく。丁寧に差し出されたグラスを、アルベルも受け取った。

 


『―それでは皆様、今宵は存分にお楽しみ下さい。乾杯!』
 
 
一同がグラスを掲げた後、拍手と喝采の嵐が押し寄せる。
一呼吸置いてから楽団が演奏を始め、会場は再び和やかさを取り戻し騒がしくなった。
動き出す人の群れを眺めながら、グラスの中のシャンパンを口に含んだ。苦くて美味しくはない。

 

​

「やっと見つけたー!」
「こんな所に居たのかい?」

 

​

群衆を割ってやって来た2人組の男性。
一瞬誰だか判別つかなかったのだが、リカルドとヴァンであった。
リカルドはいつもの執事用の黒地スーツではなく、ベージュ地に模様の入ったフォーマルスーツ。刺繍にラメが入っているので動く度煌めいて豪華であったが、タイトな体型と美しい姿勢のおかげか洗練された上品さがあった。同じ生地のベスト、アスコットタイとポケットチーフはお揃いの緑で、光沢が華やかな色合い。ラベルピンは蔦模様のチェーンであった。
反対にヴァンは普段の白いグアルガン制服と真逆の黒地スーツで、灰色のベストに、ネクタイとポケットチーフは落ち着いた色味の赤。派手な赤毛は前髪を掻上げるようにバッチリセットされていた。

 


「お前ら、何してんの?リカルド、執事の仕事は??」
「それが・・・。使用人の仕事は禁止されてしまってね。ベルと一緒にパーティーに出席するよう言われたんだ。君をエスコートしろって意味だと思って、探してたんだ。」
「俺はレベッカの代理出席。今夜のベルちゃん一段と可愛いねー。」
「ディアナに無理矢理着せられた・・・。」
「ベル。まだ食事を取ってないのかい?」
「食いしん坊のキミが?もしかして雰囲気に飲まれた?」

 


正論を突かれて顔を赤くするアルベルに、ヴァンが軽やかな笑い声を上げる。
すかさずリカルドが、料理を取りに群衆の中に入っていった。
今日はネスタ家お抱えの料理人に加え、有名なレストラン在籍経験者や貴族と繋がりがある有名シェフ、パティシエを招いて様々な料理をブッフェ形式で並べている。
皿を2枚、手慣れた手つきで抱えアルベルが好みそうな料理を少量ずつ並べていく。
目線を感じて顔を上げる。
ネスタ家執事長、ベックマンが空いた皿を最低限の洗礼された手つきで片付けているところであった。
本来彼は経理などの裏方専門なのだが、今夜の仕切りをリカルドがハズされたと聞き表に出て来たのだろう。
全国様々な貴族や著名人が出席するパーティーだ。問題が起きては困る。
本来自分がやるべき仕事を任せてしまい、自分はこのような場に客人として混ざっていることが気恥ずかしく申し訳なさがこみ上げてくる。

 


「ディアナ様の気まぐれにも困ったものです。このような大事な夜に、執事長を欠席させ客人と同じように振る舞えと仰るのですから。」

 


リカルドが抱える皿を一瞥したのに嫌でも気づく。本来使用人が手に取ることなど許されない品々を、執事長たる彼が抱えているのが気にくわないのだろう。

 


「ですが、主の命は絶対です。この場は私に任せ、しっかりと勤めを果たしなさい。先日の彼女達の働きはそれに似合うものでした。」

 


何の事を差しているのか、リカルドにはすぐに察しがついた。
オニキスの研究施設で疑似精霊核とルチアーノ博士を保護したことは当然ベックマンにも報告している。
彼は宝具を揃えることに執着している様子であった。
その時の彼の発言が頭を過ぎる。
―ディアナ様を守ることを亡き旦那様に誓いました。ネスタは初代王にも精霊王にとっても特別な血筋。
宝具全てその身に納めれば、国は全力を挙げてディアナ様をお守りするだろう―。
―必ずお嬢様をお守りするのです。例えどんな生まれであろうとも、貴方を拾い側に置いたのはお嬢様であり、許可なさったのは先代のご判断である―。
肥え太った招待客の1人がリカルドの側にある料理を取ろうと近づいてきたのを素早く察して、ベックマンは気配を消して去っていた。
残りの料理をさっと皿に盛って、アルベル達の元に戻る。
窓際にひっそりと立っているアルベルとヴァンに、これまた正装に身を包んだシャルルが加わっていた。
柔らかい色味の水色スーツは、彼の金髪と色味が複雑な瞳を際立たせ鮮やかに演出していた。
普段自信なさげで猫背気味、オーバーサイズの作業着姿なので、きっちりしたスーツを纏うと
彼も年相応に背丈があり、職人故に筋肉質であったのだとよくわかる。
このパーティーには商工会の面々も招かれている。
工具店店主の代理として出席したのだろう。彼の父はこういう場が苦手なのだ。

 


「お待たせ。ほら、アルベルが好きそうなもの取ってきたよ。今晩は、シャルルくん。」
「こ、こんばんわリカルドさん、フォーマルスーツも似合いますね。」
「ありがとう。今、シャルルくんの分も取ってくるから。」
「だ、大丈夫です。この雰囲気に飲まれて食欲が・・・」
「俺のは?」
「自分で取れるでしょ。」
「冷たー。」
「んー!この肉ウマッ!」

 


豪華な料理が乗った皿を受け取って、早速ローストビーフを頬張って即座に満面の笑みを浮かべるアルベル。
ほんのりチークを差した頬が更に赤味を増した。
先程まで会場の空気に飲まれて縮こまっていたのが嘘のような笑みに、リカルドは自然と表情を柔らかくした。

 


「テーブルマナーがなってないな。」
「大きな口を開けて、はしたない。」

 


彼らの近くにいた紳士と婦人が蔑むような鋭い目線を彼らに投げ、わかりやすく大きな声で悪態をついてきた。
大声のせいで、回りで談笑していた招待客からアルベルへ視線が集まる。
普段なら気にしないアルベルだが、此処は普段世話になっているディアナが主催した交流の場。
自分がディアナ自身が招いた客人の適合者だと分かればディアナの評価が――

 


「彼女はネスタ家がお預かりしている大切なお客様。私の大切な友人でもあります。」

 


人の波が左右に割れ、金髪の少女―ネスタ家当主ディアナが現れた。

 


「彼女への侮辱は私への侮辱と取ってよろしいですね。」
「と、とんでもございません!ネスタ様を侮辱などと!」
「ご友人様とはつゆ知らず、失礼いたしました。」

 


侮辱していた紳士と婦人は必死に頭を下げてから、そそくさと人混みの中に消えていった。
騒動が落ち着き、賑やかな話し声が戻る。

 


「お、おい。よかったのかよ。大事な客だろ?」
「ネスタ主催の場で、他者を見下し貶すような方はお客様ではありません。振り分けが出来て良かったですわ。」

 


ディアナがそっと右手の方に視線を投げ、その先でベックマンが動いたのをリカルドだけが気づいていた。

 


「それよりアルベルさん!アルベルさんが好きなピレーモ料理を沢山用意させたのですよ。一緒に食べましょう。」
「待てディアナ。まだ肉食べたい。」
「そうですわね。まずはメインですわ!参りましょう。」

 


少女らしい満面の笑みを浮かべたディアナは、アルベルが皿を持ってない方の手を取って料理が並んだテーブルに向かっていく。

 


「客人への挨拶回りとかいいのか?ネスタ当主に挨拶したいヤツはこの会場に山ほどいるだろう。」
「この中にネスタ家当主がわざわざ気を使うレベルの客人はいない。」
「うわ。ハッキリ言うよな~。パッと見渡しただけで不動産王に旧貴族、全国展開してる企業の社長に大女優までいるっていうのに。」
「ぼ、僕は注がれてた視線だけで気絶しそうだったよ。」
「今日はずいぶんと、子供っぽい言動をするな、ディアナ様。普段はもっと回りに気を使うだろ。」
「・・・。」
「ま、関係ないけど。俺たちも適当に食って飲んでするか。シャル、一緒に―。」
「君達はダメ。」
「ハァ!?グアルガン代表で来た正式な客だが!?」

 


リカルドは群衆を眺めていた視線を彼等2人に戻した。

 


「二人とも、ちょっと手伝ってよ。」

 

 

​

*

 

 


パーティー終了後。

 


「リカルド、どこへ連れて行くのです?」
「そうだぞ執事。慣れない靴で足疲れたんだけど。」

 


締めの挨拶と客人の見送りを終えたディアナは、リカルドに呼び出されアルベルと共に裏庭へ向かっていた。
使用人がパーティーの主催である主人を連れ出して目的も言わず先を歩くなど、礼儀以前の大問題ではあるが
今日は使用人としてではなくアルベルの友人として出席しろと言った手前、無礼を叱るわけにもいかない。
アルベルが来てからというもの、すっかり彼女の訓練場となった裏庭は、普段は屋敷が見えないように高い木々が
柵の前に生え並び、綺麗な芝があるぐらいなのだが
少女2人より遙かに背の高い生け垣の壁が一直線に伸びていた。
ちょうど屋敷から裏庭を隠すように立ち塞がる生け垣に1箇所切れ目が出来ていて、そこから足を踏み入れる。
なんと驚くべきことに、そこには小さな野外パーティー会場が出来上がっていた。
白いテーブルクロスが敷かれた丸テーブルが3つ運ばれ、テーブルの上にはパーティーに出していたものと同じ料理が並び
、テーブルの側に植えられた数本の低木同士の枝に裸電球がくくりつけられ、電球と安っぽい色とりどりの飾りが頭上に浮かんでいた。
一番左の丸テーブルにはヴァンとシャルル、中央には主人を待っていたらしいユリウスが、2人を見て軽く頭を下げた。
生け垣や木々は彼が作ったのだろう。
一般家庭の子供の誕生日会レベルの装飾、頼りない明かり。
ただそれだけなのに、秘密基地に足を踏み入れたようなワクワク感が胸の奥からこみ上げて、少女2人は同時に笑顔を作った。

 


「なんだこれ!すごい!」
「まあ。あなたがこれを用意したのですか?リカルド。」

 

​

無表情のまま、しかししっかりと頷いて見せた執事長に唖然としたような表情を浮かべたディアナが、すぐ軽やかな声を漏らして笑った。
アルベルは小走りで近くのテーブルに寄って、さっそく赤ワインソースがかかった鴨肉をフォークですくって口に運ぶ。
此処にはマナーを気にする目も避難の声もないから、満足そうな声を漏らし隣のシャルルにも勧める。

 


「今頃、ベックマンのこめかみに青筋が何本も立ってるわね。」
「お叱りは受けます。」
「いいのよリカルド。貴方がせっかく用意してくれた素敵な会場なのだから。・・・気づいていたのでしょ?」
「はい。天国のティナ様も、今のディアナ様にはお喜びかと。」
「主としては情けない限りだけれど、せっかくのお母様の誕生日にパーティーなど、気乗りはしなかったの。
アルベルさんがいてくれて良かったわ。
さ、貴方も食事を楽しみなさい。先程のパーティーでは手を付けていなかったでしょ。給仕も必要ないから。」

 


金の繊細な髪が弾みながらアルベルの隣に並ぶ。
途端、弾けた華やかな笑みは、安っぽい裸電球の明かりと頭上の月明かりに負けない程の愛らしさで
先程の会場で頭上を支配していたシャンデリアによりも輝いている。リカルドにはそう見えた。
あれがお嬢様の本来の華やかさなのだろう。

 


「支援者をふるいにかける場に、前当主婦人の誕生日を利用してたのか。」
「盗み聞きは関心しないよ。」
「前当主は絶大な権力と、圧倒的なカリスマ性があって沢山の支持と資金を得ていたもんな。
母親の誕生日を口実に拝謁させて権力を誇示させる。あの古タヌキ執事が考えそうなこった。
両親を同時に失った後も当主として立派にやってるよ、お前の主。」
「何も知らないのに偉そうに言わないでよ。」
「何だよ。お前の主のために、この小さな会場飾るの手伝ってやったろうが。」
「ほとんどユリウスがやってくれたんだ。君は無駄口を叩いただけで――っ、」

 

​

リカルドとヴァンの口に、同時に何かが放り込まれた。
口の中に甘みと酸味が広がる。それは苺で、黙らせたのはアルベルだった。

 


「お前らいい加減にしろよな。」
「2人とも、早くしないと、ベルに全部食べられちゃうよ?」
「シャルルもめちゃくちゃ食べてるじゃんか。」
「ベルちゃん、ユリウスが音楽もあるって言ってるわ。」

 


他人の気配が無いので姿を現した人型のセウレラが指差した先で
ニコニコのユリウスがどこからか持ってきた古いオーディオ機械のスイッチを押した。

 


「まあ素敵!アルベルさん、踊りましょう。」
「アタシは踊れない・・・っておい、ディアナ!」

 


アルベルの手を引いたディアナが、空いたスペースへ誘った。
背丈も違う少女が向き合い手を取り合って、ステップを踏む。
音楽に合わせ左右に動くだけの簡単なステップ。先程いたパーティー会場でセレブ達が踊っていた本格的な
ダンスとは程遠い。優雅さも丁寧さも何も無い。
始めはおっかなびっくりといった様子で下を向いていたアルベルも、すぐにコツを掴んで顔を上げた。
裸電球の安い明かりが二人を照らして、音質の悪いオーディオから流れる掠れた旋律。
どこか非日常的な光景なのに、懐かしさが胸に広がるようであった。

 


「ほら!お前らも混ざれよ!」

 


ピンクの髪とスカートの裾を揺らしてアルベルが手招きする。
星明かりにも月明かりにも負けない目映い笑顔に誘われ、
悪戯っぽく笑ったヴァンがシャルルとリカルドの肩を無理矢理掴んで進み出た。
ステップも関係なくリズムに体を揺らし、男性陣も踊り始める。
具現化して姿を現したセウレラが、小さな水球を彼等の頭上に無数創り出して、光の反射を増やしてキラキラした世界を演出して、ニコニコ微笑みながら手拍子をしていたユリウスが可愛らしい小さな花を降らせた。
夜更けの訪れを匂わせる冷たい風も、その裏庭は避けて通っているかのようだった。
この時だけ、全員が時間を忘れ、身分を捨てて、過去すらも見ないようにして今この瞬間を楽しんだ。
この時だけ、彼等は同じ年頃の少年少女であった。
本来そうあるべき姿をやっと取り戻せたのだと思えるぐらい腹から笑って、正解なんてないでたらめなステップを踏んだ。

 


運命が、すぐ側で冷笑を浮かべていることすら知らずに。

​

​

 

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