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*** 16

 

拍手喝采の中、たんまりとチップを稼いだピエロは鞄を担いで次の営業場所へ行ってしまった。
広場に集まっていた群衆は自然と散々になっていく。

 


「面白かったな!」
「うん。」
「次はストリートの方に―――ん?」


言葉を区切り、ヴァンはポケットから紙を出した。
白い紙に黒い滲んだ線で複雑な模様が書かれている。


「なんだよクチナシ。・・・・・・ここじゃマズイ?・・・ったく、面倒くさ・・・わかったよ!」


急に手の中の紙と話だしたヴァンが大通りではなく細い小路に向かったので、シルヴァーノも続く。
飲食店の裏手口扉と室外機が並ぶ薄汚れた路地に入り、人がいないのを確認してからヴァンは紙に話し掛けた。
すると、紙が勝手に浮かび上がり、そこから人が現れ音もなく地面に着地した。
黒い民族衣装に黒い髪、背中に真っ直ぐの剣を背負った女性で、ヴァンのポケットに入っていた紙は面積を広げ、それで顔を半分以上覆い隠していた。

 


「僕、本で見たことある。ジパン国の衣装だよね。」
「ああ。ウルの式神クチナシだ。で、なんだよ話って。」


顔を紙で覆っているため表情はわからないが、顔ごとヴァンに向けた。


「主から伝言だ。急ぎ中央区2番地の空き地へ向かえ、と。」
「ゲッ。もうバレたか・・・。」
「主の言い分を破るからこうなるのだ。空き地で商工会の奴らと落ち合い、屋敷に戻るぞ。」

 


くるりと向きを変え歩きだした式神に慌てて続く二人。


「なんで他人と合流?勝手に帰れるぞ?」
「わからぬ。主からの通信が切れた。何か非常事態が起きたのかもしれぬ。」


式神の早足からも急いでいるのが伝わってきて、二人は後を追いながら顔を見合わせた。

 


「やっぱ王子を勝手に連れだすのはまずかったかな・・・。」
「大丈夫。僕が怒られるから。」
「そういう問題じゃ―――」

 


角を曲がり目的地である空き地の真ん前に辿り着くと同時、前方のクチナシが足を止め背中の刀に手をかけた。
彼女の背中越しに見えたのは、地面に倒れる数人の大人達。
そして―――

 


「あら坊や。久しぶりね。」


倒れる大人の傍らにいた気味悪い程白い肌の女がヴァンを見て微笑んだ。
漆黒の髪に闇色のドレスを着た美しい女なのだが、どこか浮世離れした雰囲気を漂わせている。
反射的に息を呑み、ヴァンは一歩後退した。

 


「そんなに怖がらないでちょうだい。少し背が伸びたかしら。・・・まあまあ!迷子の王子様も一緒だなんて!これで本体にもマスターに誉めてもらえるわ~。」


手を合わせ少女のように大げさに喜ぶ黒髪の女が、ヴァンに近づいてくる。
ヴァンは指先に揺るわせていた。顔色がみるみる悪くなり、余裕が一部も残っては居ない風にみえる。

 


「なんで・・・ダークは街に入れない・・・。」
「そうだわ。説明しなければいけないわね。私はダークであってダークじゃないの。
手下の肩にちょっとずつ残思を預けてヴォルクに入り込ませて、やっと動けるぐらいの大きさになった分身ってところかしら。精霊ではない幻影だから力はあんまりないけど、本体に変わって坊や二人を連れ帰るぐらいは出来るわ。」

 


クチナシが体を低くしながら刀を抜いて構えた。

 


「行けヴァン!」
「・・・クチナシ、・・・オレ・・・。」
「さっさと主のところへ逃げろ!また友人を失う気か!?」

 


背中を向けられながら怒鳴られ、ダークによって失った大切な友人の最期の笑みを思い出す。
そうだ、もうあんな思いはしたくない―――。
正気を取り戻したヴァンはシルヴァーノの手を取って走り出した。
あっという間に空き地から離れ、大通りを避けながら細い路地裏を選ぶヴァンの背中にシルヴァーノが問う。

 


「ヴァン、道分かるの?」
「任せろ。そういう訓練は身に染みる程やって来た。」
「でも、こんな狭い道危ないよ。あの影は暗い道を好むんだ。」
「アイツは他人を平気で傷つける!大通りの無関係な人間を巻き込むわけにはいかねぇ!」

 


店が並ぶ商業地区を抜け、ある程度綺麗で整った路地を辿る。
大小様々なビルが並ぶ裏側で、沢山の窓だけが見える。。
シルヴァーノには友人がでたらめに道を選んでいるように思えたが、ビルとビルの間からネスタの屋敷に続く坂道が見えた。
最短距離で路地を抜けたようで、あともう少しで屋敷の前の道に出る。
とある十字路を走り抜けている途中で、突然ヴァンが足を止めシルヴァーノを抱え十字路の右の道に飛んだ。
今二人がいた地面に、真っ黒い水溜まりが出現していた。
そして水溜まりのような黒円の向こうに、不格好な黒人形が立っていた。
数日前の雨の日に、シルヴァーノが書斎から見た影だ。

 


「ダークの出来そこないか。もう少しなのに・・・!」
「あの影の狙いは僕だ。ヴァンは先に逃げて。」
「置いていけるわけないだろ!もう少しだ、行くぞ。」

 


再び二人は走りだす。
先程の道を真っ直ぐ行くのが最短だったが、影に邪魔されたので一本隣に入り右左折すれば屋敷前通り。
左に曲がる。
真正面に高いビルがあるので光が遮られ薄暗い路地だった。
だがビルのすぐ前の道を右折すれば―――
二人の前に、真っ黒い壁が現れ進行方向を塞がれた。
更にすぐ後ろには影が迫り、逃げ道を完全に失ってしまった。
路地と住宅地を分ける壁は子供には高すぎて登れない。
ヴァンは人型の影を睨みながらシルヴァーノをかばうように立ち塞がった。
警戒しつつ、徐々に距離をつける影に下唇を噛む。
今、自分は武器を何一つ持っていない。
普通の人間ならともかく、相手は精霊の残思。
物騒なものは捨て普通に生きろと父に言われたが、大切な友人を守れぬほうがこんなにも辛いならば―――。
緊張と焦りがピークに達した時、急に目の前の影が真っ二つに両断された。
切れた箇所から体がパラパラと粒子になり消えてしまった。

目の前に立つ父の式神。手にしている剣は、真っ二つに折れてしまっている。

 


「間に合ったか。」
「クチナシ!」
「もう少しだ、走れ。」


緊張がほどけきれず僅かに震えた声で礼を述べてから、シルヴァーノの手をとってヴァンは走る。
細い路地から抜け、大通りを横断しネスタ邸への坂を上がると、門の下にアウルとエミディオが立っていた。

 


「良かった!怪我はないかい?」
「あ・・・、俺達、」
「まず中に入って。屋敷の中が一番安全だから。」


背中を押されながら早足で庭を抜ける。
表玄関から屋敷に入ると、ヴァンはいきなりウルに腕を掴まれた。

 


「オレは後でいく。」
「わかった。謁見の間にいるよ。さ、王子はこちらへ。」
「シルヴァーノっ、」
「お前はこっちだろ。」


引きずられるようにして友人から離され、他人の屋敷ながら我が者顔でズンズン廊下を辿りウルに連れられ、とある部屋に入った。
豪華な壁紙とカーテン、テーブルセットが置かれた長方形の部屋で、中には既にクチナシが壁際で控えていた。
痛いぐらい強く掴んでいたヴァンの腕を離し椅子に座らせると、自身はしゃがみ込んで息子の顔を覗き込む。
金の瞳が不安で揺れてるのを見て、ヴァンは自分がしてしまった事案の重さに気づく。
アウルはヴァンの前髪を長い指で掻き分けた。

 


「切れてる。」
「え?」
「クチナシ、救急箱。」
「御意。」

 


壁の中に姿を消したクチナシが、数秒後には救急箱を持って現れた。
箱を受け取ると、ガーゼに消毒液を湿らせ額と生え際の間に出来た傷に優しく当てていく。

 


「怪我なんかした覚えないんだけど・・・。」
「夢中で逃げてたせいだろ。石ころでも当たったか。他に痛むとこあるか。」
「大丈夫、みたい。」
「そうか。」

 


晴れない顔のままガーゼを当て医療用テープで止める。
慣れた手付きではあるが、肌に触れる指先の震えは伝わってくる。

 


「ウル、ごめんなさい。」
「・・・。」
「ごめんなさい。俺、」


か細い声で謝る息子を、父は耐えきれず抱き締めた。
濃厚な煙草の匂いが染み込んだ黒衣越しにも、体の震えがわかる。
この人が、とても寂しがり屋であることを忘れていた。
袖の長い上衣にすっぽり包まれると、耳元に弱々しい声が届いた。


「ダークにさらわれちまったら、どうしようかと・・・。」
「クチナシが逃してくれた。今度はちゃんと、友達守れた。」
「ああ、良かったな。」
「言いつけ破ったね。」
「説明しておかなかった俺も悪い。だが、後でたんまり説教だかんな。」
「うん。」

 


見た目よりずっと歳で長生きしてるはずの父親は、見た目より心配性なのだ。
息子の無事を目に見て確認できたので、立ち上がった。

 


「お前はこの部屋から出るな。」
「あれはダークであってダークじゃない分身だって言ってた。狙いはシルヴァーノだ。」
「安心しろ。必ずお前の友達は守る。後で会わせてやっから、今度こそクチナシと大人しくしてろよ。」
「うん・・・。」

 


息子の燃えるような赤毛を掻き回し、アウルは第一会議室から出た。
廊下を使用人と会わぬように進み、右翼棟の更に先にある離れに入った。
謁見の間と呼ばれる大理石の正方形ホール。
かつて王族同等の権力を持っていたネスタは、ホールの奥にある玉座を模した椅子に座り来訪者達を出迎えていた。
今は使われることがないそのホールは、赤い絨毯が玉座に向かって伸び、玉座がある奥は数段の階段があって高く作られていた。
入って左側に天井まで届くガラス窓が4列並んで、サテンのカーテンが床まで伸びている。
天井には円形のステンドグラスが埋め込まれており、そこから注がれる光はちょうど玉座を照らす造りになっていた。
玉座以外は本当に何もない。古代建築家の手腕とエゴが最大限生かされた芸術性が高い空間であった。
扉から王座に向かい伸びる赤い絨毯の上に、エミディオとシルヴァーノが立っていた。
少年はアウルが入ってくるなり彼に申し訳なさそうな顔を向けた。

 


「ごめんなさい。ヴァンは悪くないんです。僕が―」
「大丈夫だって。説教してたわけじゃないから。まあ後でお仕置きぐらいするけど。どうせ、友達に街を見せてやりたいとかそんなんだろ?怒ってねぇから。」

 


手を上げ笑うアウルの様子にほっとして胸を撫で下ろす。
黒衣のアウルは絨毯から外れ大理石の床に立つ。彼の足元に突然魔法陣が浮かび上がった。
複雑な模様と線で作られた発光する円形陣はゆっくりと時計回りに回転していたが、アウルが何かを小さく呟くと反転し始めた。
謁見の間の扉が開かれ、ダンテとその娘レベッカが急ぎ足でやってきた。
陣の中でアウルが声を掛ける。

 


「あれー。レベッカちゃん王都にいたんじゃないの?早くない?」
「ケルベロスの動きを察知し昨夜の内に王都を出ておりました、魔術師様。」
「占い師!」
「魔法陣の上に立ってりゃ説得力ないぞ、アウル。」


ダンテが険しい顔で兄に報告する。

 


「ケルベロスらしき不良共が屋敷の下に集まりつつある。数は少数だが、ダークの分身が指揮をとってやがる。おいアウル、精霊はこの街に入れないようにしてあるとか言ってなかったか?」
「力を千切った分身は、精霊とは少し違うらしい。今調整してっけど、時間掛かる。」
「市民の避難は。」
「近隣住民に外出禁止令を出して道を封鎖。ゲント達が観光客を入れないようにしてくれてる。」
「街の損害を出さずに済みそうだが、王子がここにいることバレたからな。」

「それともう一つ。ケルベロスの支援者と思われているポール・ボイヤーの死体が海で発見されました。現在検死を行っており、詳細確認中です。」

「スポンサーを切り捨てたか。」
「・・・おい、ダークの分身が屋敷の結界に穴開けようとしてるぞ。」

 


アウルが魔方陣の上で渋い顔をした。


「ああクソッ、術式の穴をついてきやがった。ケルベロスの出入りが多かったのも、街に潜入するのと、体を適合させる目的があったみたいだな。」
「おいおい頼むぜ。俺の肺を半分をくれてやって結界を作り、去年の襲撃は防いだっていうのによぉ。」


ダンテの諦めきったような声にエミディオも辛そうな顔をした。

 

「猶予はどれくらいだ。」
「さすがにあと数分。」
「カフだろ、気張れよ!」
「やってる!
時間がいるし、この屋敷の守りが数分手薄になる。」
「俺達が踏ん張ろう。ゲント達も呼ぶ。」

 


執事を呼び、指示を投げる。
執事の手腕で、ディアナや使用人達は既に屋敷の外に避難完了とのこと。
残っているのは、此処に居る5人と、第一会議室にいるヴァンのみ。
シルヴァーノ王子も移動させたいところだが、近くにダークの分身が来ているのなら、此処にいた方が安全であろう。

アウルの足元にあった魔方陣に、別の模様が浮かび上がり、重なったり回転したり忙しなく動きながら発光し始めた。
足元から吹き上がった風がアウルの黒衣をなびかせる。
両開きの扉がいきなり凄い音を立てて開かれた。黒いモヤが大理石の床を滑り、彼等と対面する位置に黒いドレスをまとった女が現れた。女は赤い唇をつり上げて、不気味に笑った。

 

「お招きどうもありがとうネスタ様、そして忌々しいヤクト一族のカフ。
本体から伝言よ。“私の大事な核を壊してくれてどうも。おかげで新しいマスターと契約出来たわ。”」

 


新しいマスター、の言葉に一同に反応する。
正規適合者が生まれたなんて報告は無いが、あれだけ苦労して破壊した精霊核を再び創り出し、また別の契約主を見付けたのだろうか。
魔方陣をじっと見つめながら、アウルが答える。

 

「礼を言いにきてくれたのか。律義だな。」
「挨拶は大事でしょ?さあ、王子様とヴァンを渡しなさい。」

「新しいマスターと契約出来たなら、ヴァンはもう必要ないだろ。」

「マスターが一番欲しがっているのはヴァンよ。王子様はおまけ。カフとはいえ、所詮手品師みたいなもの。市民全員を殺されたくなかったら大人しく渡しなさい。」
「手品師とは、言ってくれる。」
「旦那様!!」


ダークが無理矢理こじ開けた扉から、武器を携えた男達が駆け付けた。ゲントを始めとした商工会メンバーだ。
彼らは剣や槍を構えながらダークを取り囲む。
ダークの右側にいた男が地面を蹴ってダークに斬りかかった。
横凪に降った太刀の刃が、真っ二つに切断され、折れた刃が落ちる前に、後ろから同じく剣で突進した若い男の顎をダークが回転しながら踵で打ち付ける。
仲間が攻撃を受けても他の精鋭は動揺せずダークに飛びかかる。
右の者が仕掛けたら左、左の者が仕掛けたら右と連携の取れた攻撃だったが、ダークは涼しい顔でダンスでも舞っているかのように全ての攻撃を交わし
武器を折るか手に作った黒珠で男達を気絶させていく。
ダーク本体ではないとはいえ、人間を傷つけてはならないという規制が掛ってるようで、大怪我を負わせるようなことはしないと、アウルもエミディオも気づいた。
しかし、取り押さえることも僅かな時間稼ぎも適わなかった。
向かってくる人間が残っていないとわかると、ダークが一歩彼等に近づく。
ダークの目の前に、部屋を二分する半透明な壁が現れた。
煩わしいと言いたげに、ダークが黒いガラス片のようなものを投げたが、半透明な壁に触れると分解され消えた。

 


「まだ足掻こうというのかしら。諦めが悪いわね。」
「こちとら地脈の守り手だぞ。ヴァンが命がけで持ってきた精霊核のおかげでお前さんの分子パターンは把握済みだ。本体からこぼれたウロコみたいなヤツなら楽勝だな。」
「守るばかりで攻撃できないじゃない。早く本体に“目を見つけた”と報告しなきゃならないんだから、どいて頂戴。」
「あ?なに、まだ報告してねぇの?」
「私という欠片は大昔にダークが切り離し王宮に置いてきた忘れ物みたいなもの。本体の思考や命令は受信できるけど、長い間完全に切り離されてたから、本体の元に帰って融合しないとダメなの。機密事項だから、人間の手下達に伝言するわけにしかないし。」

 


わざとらしく肩をすくめるダークの分身。
半透明な結界の向こうで、アウルがニヤリと笑った。


「いいこと聞いた~。」
「あら、話過ぎたかしら?長いこと孤独に王宮にいたから、会話するの久々で。」
「テメェを絶対この街から出さん。」
「フフフ。捕まえられなければ意味
がないわよ。ほら、まずは1人。」


ダークが半透明な壁に向かって人差し指を差した。
すると、指先から何かが発射され、高速で打ち出された何かが半透明の壁を貫通し、ダンテの体に直撃した。

 


「お父様!!!」

ダンテの体が攻撃の勢いを受けたまま後ろに倒れ、レベッカの悲鳴が謁見の間に響いた。
床に倒れたダンテの胸に、赤い染みが広がっていた。
エミディオがジャケットを脱いで止血しようと腹部を押さえるも、血は止まらず大理石に広がっていく。
人差し指から放たれた小さな弾丸のような一撃だった筈なのに、腹部は拳が貫通したかのような穴が開いていた。
ダークとの間を仕切っていた半透明の壁に、亀裂が入っていく。

 

「兄さん、俺はいいから、街を・・・。」
「喋るなダンテ!」

 

焦点定まらぬ瞳で、ダンテは数歩離れた場所で額に汗を溜めながら賢明に仕事を続けるアウルに首を傾けた。

 


「アウル。俺の、心臓使って、アレ、追い払ってくれよ。」
「お父様!」
「バカなことを言うんじゃない!」


二人が一斉に反対の声を上げるが、力なく微笑むダンテは口元を血で汚しながら精一杯笑い続ける。

 


「頼むよ、アウル。」
「心臓は命そのものだ。多すぎる。対価にはならない。」
「じゃ、余った、分はダーク避けに。ヴォルクを、守・・・、」
「お父様!何を弱気なことを!」
「レベッカ、ネスタ・・・の、影とし、て・・・ディアナを、守るんだ・・・ぞ」
「お父様!お父様まで私を一人にするおつもりですか!?」
「お前、は・・・自慢の、娘だ。レベッカ・・・。兄さん・・・。頼む、よ・・・最期まで、お役目を・・・。」

 


半透明の壁の向こうで、ダークが結界に向け力を無理矢理叩き付けこじ開けようと足掻いているところであった。
いずれあの壁も壊される。
アウルは、魔方陣から目を反らし、エミディオを伺った。
友は涙で頬を濡らしながら、唇を強く結び、しっかりと頷いた。

 


「レベッカちゃんも、いいな。」
「・・・はい。心臓が止まる前に、お願いいたします。」
「わかった。」

 


アウルの足元に、新しく赤い線で描かれた魔法陣が現れた。

 

 

「王子サマ、ちょっと手を借りていいか。」

「はい。」

「結界を張るのに、細分化した心臓が邪魔になった。元の形に戻したら、墓地に帰るよう念じてくれ。」

「僕がですか?」

「部外者である俺が無理矢理操作するより、王族の君が命じた方が断然早い。」

「わかりました。」

 


彼は親指に噛みつき、血を数滴垂らす。
大理石が眩く輝き、粒子が激しく舞い上がり、ダークの体が透けてゆく。
ダンテの命が燃え尽きる寸前に、ダークの分身とやらを跡形もなく消し去る。

 


「フフフ。私を追い出しても無駄よ。お前達が消えた後で、必ず私達が世界を手に入れる―――。」

 


ダークの残思は消え去り、ダンテの心臓を使いヴォルク全体に結界を作った。
それはウルが張る精霊避けの結界より、断固とした意思で闇の精霊及びネスタ家にあだなす精霊を拒絶する結界であった。この結界の中にある限り、結界の許しがない精霊は中に入ることも許されず、また、宝具を所持する人間は安泰とされた。
一連の出来事を、シルヴァーノはしっかりと目に焼き付けた。
そして、役目を終えた“レヌス王の心臓”がヴォルクから消えて元の墓地に帰るのを、その賢王の目でしっかりと確認した。

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