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*** 4


「ユリウス、一番近い追っ手の気配わかるかい?」
「たぶん、ここから東に2kmから4kmにいるのがそうだと思う。ごめんね、此処の地脈はもうダークに変えられてるから、正確な距離が読めないよ。」
「十分だよ。」
「さすが正規契約。そんな遠くまで探知出来んのか。」
「緑の精霊だから、道端に咲く植物をたどって探るんだ。」
「僕はまだまだだよ。セウレラには適わないかな。ヴォルク内なら探知出来るように範囲拡大したって言ってた。凄いよ。」

 

助手席のヴァンが、サイドミラーを覗いた。
早朝で空はまだ藍色に支配されているため薄暗く、太陽の気配すらない。
点けられたライトでわかりずらいが、黒のミニバンが後ろを走っている。

 


「おい、つけられてるぞ。」
「え?ケルベロス組員の邪悪な気配なんてないよ?」
「ダークの加護でもあるんじゃないの?」


半身捻って後ろを伺う。ミニバンの助手席から何かが伸びた。

 


「まさかっ!伏せろシャル!」

 


乾いた発砲音が一つ響く。
助手席から伸びたのは腕で、銃を取り出し発砲してきたのだ。
リカルドがアクセルを踏み込むが、あちらも同じように加速して距離は変わらない。


「今のは威嚇射撃、わざと外しやがったな。」
「ど、どうするの!?」
「シャルはそのまま頭抱えてしゃがんでて。目的はヴァンなんだから、派手な攻撃はしてこな―」

 


パリン、と清涼な音色の後に、助手席側のサイドミラーにヒビが入った。


「・・・おい、派手な攻撃しようとしてるんですけど。」
「目的はヴァン奪取じゃないの!?」
「デッド・オア・アライブ!?こんな命令したのはロベルトか!?」

 


後部から聞こえる銃弾の数は増え、座席から覗くと、片手持ちの拳銃からマシンガンに切り替わっていた。
早朝で車の行き交いは少ないとはいえ、国道で堂々と打ち合いとは、野蛮事が慣れている組織は恐ろしい。
拳銃で此方を狙う助手席の男は、窓から身を乗り出してこちらを狙ってくる。
連射される弾丸にリカルドは左右にハンドルをさばき交すが、ボディに着弾する音がいくつもした。

 


「ガソリンタンクやられたらマズイぞ。」
「わかってる。ユリウス、」
「ごめん!車にも人間にもダークの気配に守られてて何も出来ない!」
「地理的に不利か。リカルド、銃とかは?」
「あるわけないでしょ。こっちはしがない執事。」
「ああクソッ!マグニさえ居れば・・・!」


自分の左手首を見下ろす。
長いことそこにあった白い腕輪はもう無いし、相棒とも引き離されてしまった。

 


「あっ!シャル、金槌貸して!」
「職人の魂投げる気!?」
「じゃなくて、ユリウス、それ持って頭叩いてこい!」
「了解!」

 


シャルが肌身話さず持っていた小降りの金槌を受け取り、座席から一瞬で後ろのミニバンでマシンガンをぶっぱなす男の脇に転移すると、
窓に座っていた男は突然の一打に驚いてバランスを崩し、車から落ち地面に転がった。
そしてユリウスが後部座席に戻る。

 


「軽く叩いただけなのに、落ちた時に怪我してなければいいけどー。」
「呑気な心配してる場合か・・・。」
「車と人間に精霊の攻撃は効かないが、物理攻撃なら有効なんだな、ユリウス。」
「うん。あと、後ろにまだ一人いたよ。」
「運転手も仕留めて来いよ~。」
「せめて体の一部でも出てないと無理だよ。」


再び銃声がいくつも降った。
ユリウスが確認した後部座席の男が助手席に移り、今度は腕だけだして攻撃してきている。
ウルの守りがとっくに切れた後部ガラスが一部割れシャルルが短い悲鳴を漏す。

 


「リカルド君、前!」


二車線しかない狭い田舎道を、猛スピードで車が1台こちらへ向かってくる。
同じように銃を掲げる腕が見える。このままでは蜂の巣だ。

 


「リカルド君、視界遮るけどいい!?」
「頼む。」


前方の車が迫り、道路に弾丸が当たりだし、後方からも銃撃が始まったと同時。
リカルドが運転する車の回りを蔦が這い出した。
幾重にも重なる蔦や葉が車を守り、ユリウスを通じて俯瞰の視点で外を見ていたリカルドは前方の車を見事交わした。
すれ違った直後、前方後方、敵の車2台は同時にひっくり返り動かなくなったのを蔦の間からシャルルは見た。
車を覆っていた蔦が全て消え、後ろを振り返っていたヴァンがシートに座り直す。

 


「何をしたんだ?」
「道路に巨大植物の種を仕込んだんだ。車が通過するのと同時に急成長させ下からつっついた。ダークの守りですぐに消えてしまったけど、ひっくり返すぐらいは出来たみたいだ。」
「それもっと早くやってくれよ~・・・。」
「仕込みに時間掛かるのは緑系精霊の弱点なんだ。複雑な植物は特にね。シャルルくん、大丈夫?怪我は?」

 


まだ頭を抱えてしゃがみ込むシャルルに声を掛ける。
シャルルはゆっくり上半身を持ち上げた。


「あ、うん・・・。大丈夫・・・。」
「驚いたよね~。銃撃戦だもんね。」
「平気だよ!僕より、ユリウスさんが・・・。」

 


隣のユリウスは、いつも通りの笑顔を見せていたが、浅く深呼吸を繰り返していた。


「一瞬ダークの気に触れたせいであてられたんだろう。ユリウス、具現化を解け。」
「でも・・・。まだ近くに敵が・・・。」
「境界線はすぐそこだ。突っ切るから安心しろ。」
「僕なら大丈夫だよ。リカルドくんは、僕が守るって約束したもの。」


ハンドルを握るリカルドは真っ直ぐ地平線を見つめていた。
気付けば空が白み始めている。夜明けが近い。


「境界線を越えたら話せなくなるのが、嫌か。」

 


道の先を見つめたまま問う。
やや間があって、後ろから弱々しい声が返ってくる。


「もちろん嫌だよ。ヴァンくんや、シャルルくんとせっかく仲良くなれたのに。なにより、楽しそうなリカルド君の、隣に居たい。」
「ユリウスさん・・・。」


シャルルが切なげな目線を投げると、助手席のヴァンが軽やかな笑みをこぼした。

 

「安心しろよユリウス~。俺達これからも友達だろ?リカルドとも嫌でも一緒だろうさ。」
「そうだよ!言葉なんてなくても大丈夫!いつでも会いに来てよ!」
「なんなら筆談とか手話でも覚える?てか、ウルにお願いして話せるようにしてもらえば?どうせ、ウルが裏で色々やってる影響で喋れないんだろ?」
「・・・ヴァンが喋れなくなればいいのに。静かになる。」
「アア゙!?」

 


先程銃撃があったばかりだというのに、あっという間に呑気な会話を交す彼等を見て、ユリウスは背筋を伸ばし笑った。

 


「有り難う、皆。また一緒にお喋りしようね。」
「ああ、約束だ。」

 


地平線に淡い黄色の光が指して来た。
山脈や雲の輪郭線を指先で撫でるように朝日の前に差し出してくる。
やがて東の空が橙を含んだ桃色に染まる。
穴だらけの車は、もうじきヴォルクにたどり着く。
具現化を解いたユリウスの声が聞こえた。


『リカルド君、左からダークの気がある車が来るよ。』
「ちょうどいい。ヴァン、顔出して。」
「は!?」
「君がヴォルクに入ったと報告してもらわなきゃならない。」
「ああそうか。」
『安心してヴァン君!弾丸は僕が絡めとるから。さっきのでコツが掴めた。』
「頼むぜユリウス~。風通しのいい顔にはなりたくないからなぁ。」
『了解!』


差し掛かった十字路で、赤い車が体当たり覚悟で猛進してきた。
リカルドはアクセルを目一杯踏み込む。敵を前に、リカルドは気分が高揚していくのを感じた。
精霊の気持ちが流れこんできたのかもしれないが、彼自信も、嬉しかったのだ。
執事としてではない自分を受け入れてくれる友が出来たことに。
そして、契約してからずっと側にいてくれた精霊が、楽しいと思える時間を体験出来たことに。

 

 


*   *   *


生まれたての朝日が差し込むヴォルク、ネスタ邸の屋上にて。
具現化したセウレラが腰に手を当て地平線を見つめていた。


「ヴァンくん達、無事戻れたみたいね。」


朝日は容赦なくヴォルクの建物群を撫でては陽光に染めていく。
影はどんどん薄くなり遠ざかる。
新しい空気が吹き込んでいく。
まるで太陽が水面を反射して煌めかせるように。

アルベルには決して見せない険しい顔で、セウレラは地平線を睨みつけながら言った。

 


「始まるわね。」
「ああ。宝具を狙う戦いがな。」


何者かがセウレラの問いに答える。
だが姿は見せなかった。


「貴女はまだ、あんな出来損ないを守るのか、セウレラ。」
「当たり前よ。あの子は、私の大事なマスター。私が守るべきものよ。」

 


速度を上げて登る太陽は、もうすっかり姿を現していた。
太陽が眩しく照る程、影は濃くなるのだ。
産まれたての朝日ならば、特に。

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