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明朝。
惑星ルナが放つ夜の明かりが弱まり、変わりに朝の柔らかな輝きが空にそっと降り立つと、地平線をなぞるように黄色い陽光が東の空を染め上げた。
白い壁石で囲まれたガムール外壁の南門が開かれ、白銀の鎧を纏った騎士達総勢百人程が鋼の門をくぐりやって来た。
馬蹄が生まれたての朝日に喜ぶ草原に響く。
先頭と後部には青地に真っ白なユニコーンの紋章が描かれた旗が風になびいており、先頭旗のすぐ近くに騎士団隊長は、灰水色のたてがみをした器量が良さげな白馬に跨っていた。
隊長自らが率いる百人部隊は都市ガムールを抜けムルタの森があるキーシェ地区へ進軍中。
翌朝には騎士団約8千の兵はアリョサムの谷へ出兵し、隊長軍がバシュデラ族の持つ魔法石を破壊次第ムルタの森の先で迎え討つ手筈になっている。
騎士団隊長の隣に、茶毛の馬に乗った僧侶が轡を並べた。


「素晴らしい朝ですな~。」
「そうですね、サキョウ様。」
「呼び捨てでええて。騎士団隊長はんとわいは立場は同等。いや、隊長はんのほうが偉いんとちゃいます?」
「何を仰いますか。マヤーナの遣いでいらっしゃるだけでなく、位は生涯修行に励んでも辿りつけぬ者が殆どという僧正。にも関わらず、平民上がりの私などの要請に応じて下さいまして、感謝しています。・・・バシュデラが相手と聞いても喜んで引き受けて下さいました。」
「もちろんや。隊長は大僧正以外なら使命出来るし、なにより直接ご指名頂けるなんて光栄なことや。どうか遠慮なさらず、わいは隊長さんの配下として見て下さいな」
「そういうわけには・・・」
「わいらは確か同い年や。堅苦しいのは好かんから態度は同等で構わんよ。タカヒト隊長。」


同い年と言われた事にも驚いたが、同い年がこんなに穏やかに笑えるものなのかとも驚く。
馬上で力を抜いたタカヒトは微弱ならが微笑みを向けた。


「ありがとうございます。」
「敬語もいらんが、まぁええわ。とにかく隊長さんの力になりましょうや。・・・ところで、わいらの進軍はこんな明るい朝でよかったんですの?仮にも隠密部隊なんやろ?」
「バシュデラは夜の種族でこんな明るく爽やかな朝は苦手と古文書にあったもので。」
「なるほど。朝はやつらにとって真夜中なわけや。」
「はい。予定通りなら3日後ムルタの森に入れましょう。奴らがいかなる間誅を放っても森に入れば動きもバレません。」
「聖なる土地は我等の味方や。」


騎士団の先見部隊はやや速足で馬を進め、順調に旅を続けた。
警戒は強めていたが、特に夜は動きがバレぬよう焚き火はたかず、僧侶やウィザードの防壁で姿を消しながら進んでいた。
念には念を入れた進行でバシュデラからの攻撃や待ち伏せなどは一切無く、予定通り出陣から3日目の朝、ムルタの森があるキーシェ地方に入った。
小さな集落が集まるだけの村をいくつか通り過ぎたが、防壁とプリーストによる催眠が効いているため村人は騎士団の馬が列を組んで通り過ぎたことに気づくことはなかった。
最後の村をやり過ごし、森までの一本道が通る丘を緩やかな足取りで渡る。
タカヒト元へ馬が一頭猛スピードでやって来た。
騎士団の諜報部隊の男だ。


「どうした?!」
「申し訳ありません隊長。トラップに掛り仲間が三人悪魔にやられ本隊の存在もバレました。すぐ悪魔がやって来ます。」
「よく知らせてくれた。」


余程恐ろしいめにあったのだろう。顔面蒼白になりながらも命からがら自分の責務を果たしに馬を走らせ危険を教えに戻った諜報に労りの言葉をかけてやり、轡を返して隊に叫ぶ。


「バシュデラに感付かれた。森へ逃げ込め!」
「な、なりません!」


真っ先に意義を唱えたのは召喚術士の長バッサムだった。
丸い体を馬の上に乗せていた彼は慣れない手綱捌きでタカヒトの前に移動した。


「神聖な土地にこんな大人数が押し寄せては神官様が怒ってしまいます!」
「神官様もこの事態をわかってくれる。」
「聖なる森の主様が騎士団の事情で平穏を乱されたとなれば精霊達も機嫌を損ねます!光の精霊も呼び出せなくなりますぞ。」
「ならばさっさと口上を述べて来い!」
「は、はいぃ・・・!」


タカヒトに叱咤されバッサムは急いで馬を走らせ既に動き出した兵の先頭へ向かう。


「聞いてたなミレイナ。バッサムが仕事を終えるまで兵が森に入らぬよう防壁を張ってくれ。」
「御意。」


ウィザード部隊の長が杖を掲げた時、耳障りな金切り声が響いて馬上で首を回した。


 

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