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バシュデラ内部

 

 

タカヒトはスロットで出口に急いだ。
森から、200m程離れた場所で繰り広げられる部下達と悪魔達との戦闘が目に入った。
バシュデラは予想通り防壁を展開し、羽の生えたスケルトンを無数召喚していた。

空はやつらの羽で黒く染まりつつある。
タカヒトは馬から降りた。


「お前は此処で待ってるんだ。後で迎えにくるからな。」


彼の愛馬は、言葉が分かっているかのように、頭を下げた。
たずなを木に結びつけなくも馬はタカヒトが良しと言うまでその場を動かないだろう。
騎士団隊長はその場で姿を消す魔法を自分にかけ、一気に駆け出し森を抜けた。
鎧がカチャカチャ音を立てたが戦場が騒がしいおかげで誰も疑問には思わないだろう。
透明なままで一気にバシュデラの本陣に近付き、半透明な防壁に触れてみた。
硬質な皮を触っているようだった。向こう側の景色は見えるのに、この壁のせいで遮断されている。
魔法を拒絶するのか、触れた指先だけ姿を表し透明では無くなっている。
タカヒトは細く息を吐いた。


「我が守護神マヤーナよ。貴方の騎士に恩恵を・・・。」


意を決し防壁に体当たりした。
体に触れた部分の防壁が溶けていく感じがして、地面を前転しながら再び透明になる術を瞬時にかけた。
防壁内に侵入成功。一瞬姿を表してしまったようだが、気付いた者はいないようだ。やはりマヤーナの守護は強力なようだ、とタカヒトは体制を整える。
防壁内で、バシュデラ族はほとんど姿を表してなかった。
いるのは悪魔召喚士達で、気配はテントの中にある。戦いの最中とは思えない光景だが、惑星ルナの明るい光から逃れてるのかもしれない。
タカヒトは防壁を展開している中心を探した。魔法石が放つ波動を感じて、足を進める。
波動は中央にある一際大きくテントから強く感じた。
忍び足でテント脇に身を潜める。中から声がする。
確認できるだけで二人、女と少年の話声。
非戦士だろうか。だがこの中に魔法石があるなら注意せねばなるまい。
腰につるした剣の柄に手を掛け、突入のタイミングを計る。
――――と、戦場が騒がしくなったことに気づく。
意識を決壊の外に戻す。

悪魔達の向こうにいる騎士団の更に向こうから押し寄せてくる一団がある。
驚くべきことに、掲げているのはセレノア王家の旗。
騎士団は命令が無いのに動くような無謀はしない。ということは―――


(貴族の私設部隊か・・・!一体何しにきたんだ!?)


タカヒトは心中で悪態をつきながら柄から手を離した。
折角防壁内に侵入したのだから、状況を見守る方がいいのかもしれない。
だが、タカヒトの勘が撤退を告げている。嫌な予感がした。
テントの中で少年が無邪気に笑い声を上げたのが聞こえる。
その声を聞きながらタカヒトはそっと後退して防壁を通り、手近な悪魔を斬りつけながら自軍の元へ急ぐ。

もう姿を消す術は掛けてない。

 

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