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バシュデラvsエルフ

至る所で魔法が飛びかい、召喚された悪魔が異空間へ帰還する赤い粒子が空へと登っている。
騎士団は上手くやっているようで、バジュデラの一隊はアクリラによりユークリア低地の奥へ追いやられていた。
エルフとバシュデラの魔法合戦も激化している。
お互い相性は良くないようで、力は均衡。数は圧倒的にバシュデラが多いが、

アクリラに乗り上手く攻撃を避けながら空から攻めているエルフ。


「精神的にはエルフが上か・・・。」


バシュデラの守りを固めた陣や攻撃に焦りが見え隠れしているようだ。
地上にて戦うアクリラ隊の中に、マヒトの友人というスノーの姿を見つけた。
愛馬の腹を軽く蹴り彼女の元へ向かう。
スノーはアクリラの上で優雅に、そして大胆にレイピアを奮っている。
タカヒトが近づくと彼女も気づいた。


「マヒトは?」
「問題ない。バシュデラ殲滅が先だと言われてな。」
「左様。我らエルフ、バシュデラの悪気にそろそろ侵され始める頃合いじゃ。」
「光の魔法を使う。詠唱の間回りを任せていいか。エルフはともかく、騎士団兵も下がらせてほしい。」
「任せよ。本当を出して構わぬぞ。」


タカヒトの魔力の一辺を、スノーはイルの台地で感知したことがある。
その力は魔法を生み出したエルフに劣らない。いや、肩を並べるレベルであり、魔導師になれていただろう。
そんな凄まじい魔力の持ち主が剣を使う騎士団の隊長とは、ヘミフィアも奇な事をする。
詠唱補佐、それから回りに指示を与えながらスノーはそんなことを思っていた。
馬を降りたタカヒトの足元に魔法陣が浮かび眩く光りだす。
バシュデラや召喚悪魔達が瞳を閉じ隙だらけの騎士団隊長の首を狙って飛びかかるが、

スノーが張った結界に触れた瞬間灰塵となりレファスの大気に消えてゆく。
詠唱もクライマックスにさしかかった時、地面からぬるりとした黒い影がタカヒトの目の前に出現した。
泥のように鈍い動きをする影の中から、茶髪の女バシュデラが現れた。
最低限の場所しか隠れていない露出度の高い格好をしているのに、その顔は上品で、優雅に微笑んでいる。
女が放つ異様さにスノーの本能が警鐘を鳴らす。
懐から短剣を抜き素早い動きで女に投げつけた。
短剣は、バシュデラ特有の太く長い尻尾に弾き飛ばされた。
しかし短剣は意識誘導に過ぎず、僅かな間で女の間合いに入ったスノーはゼロ距離で雷の魔法を打ち込んだ。
エルフの中でも特に高位である上級魔法使いである彼女の洗練された術をくらい、平気な生物はいない。
―はずなのに、スノーの体がバシュデラの尻尾に弾かれ倒された。
女は笑みを絶やさず立ち続けている。


「ムリムリー。僕のヒカリにそんなちゃっちぃ魔法通じないって。」


子供の声がした。
いつ現れたのか、女のすぐ脇に銀髪の子供バシュデラが子供らしからぬ意地が悪そうな笑顔をスノーに向けている。
話は聞いていたので、目の前の子供がバシュデラの長だとすぐに理解した。


「僕の眷属は特殊中の特殊。エルフごときに破壊不可能だね。」
「貴様・・・。生意気な口を妾にきくでない。」
「フフフ。エルフは傲慢で困るよ。長寿であり古代種なのはエルフだけじゃない。つけあがるな。」


言葉の後半で、フッと表情を消し冷ややかに少年が告げると、

命令される前に女バシュデラ―ヒカリがスノーに掴み掛かってきた。
馬乗りになってくるヒカリを弾こうとするも、凄い馬鹿力でビクともしない。
すると、少年バシュデラがタカヒトに近付いた。
スノーが張った結界を虫を払う仕草で易々と消してしまった。


「タカヒト殿!」


詠唱を続けながら、タカヒトは瞳を開けた。


「やあ隊長さん。また会えて嬉しいよ。」


タカヒトは詠唱を止めようとはせず、少年バシュデラを睨みつけた。
逃げるようスノーが叫ぶが、動こうとはしない。


「流石レファスは手強いよね。隊長さんの“弱味”に挨拶したくても、首都の結界が全然破れなくてさー。

隊長さんが結界の一角を握ってたなんて、無駄な事しちゃったかな。

結局、隊長さんを殺すのが一番早いんだから。」


スノーの異変に周りのエルフが長に立ち向かうが、長く鋭利な黒爪に腹部をえぐられ絶命する。
押さえ付けられているスノーはヒカリに魔力の固まりを投げつけたり暴れてはみるが、

ヒカリは涼しい顔を崩そうとはせず、スノーの手首を握りながら地面に深くめり込ませてゆく。
長は血が着いた指を舌で舐めた。


「じゃあね。」


鋭利な爪でタカヒトの首を横凪に切りつけた。
スノーは心臓が止まったような気がした。
マヒトの大切な人物を、助けられないとは、なんと愚かなエルフか!
―突然、視界が白い閃光に包まれた。
体の拘束が弱まり、ヒカリを仰ぐと、彼女は発光するムチのようなものに上半身を拘束されていた。


「お喋りなやつだ。」


体を起こす。
タカヒトが立っているすぐ後ろに、光の柱が出来ていた。
下から上に吹き上げる魔力は、辺り一帯のバシュデラ達を全て拘束している。長の少年も例外ではない。
顔は笑っていても、焦りの色が見える。


「何で詠唱間に合っちゃうかなー。」
「マヤーナのご加護だ。」
「いやいや、隊長さん。アンタはアルの予言書には出てこない。無名の人間ごときが―」
「お喋りが過ぎる。・・・・・・ホワイトブレイク!」


タカヒトがそう叫ぶと、光の柱が爆発したように勢いよく天に走り、バシュデラは悲鳴を上げた。
捕われた体がムチに引かれ光の中へ連れ込んでゆく。
ムチを振り払うことも出来ず、激しく抵抗しても力量とは別の差で勝てることもない。
ただ二人。バシュデラ長とその眷属ヒカリだけが地に足をつけていた。
大量の汗が額に流れていることから、相当の力で魔法にあらがっているようだ。


「クッ・・・。全滅させる気かい・・・。」
「帰りの手間を省いてやっただけだ。大陸の地下に転移させてある。」
「そなた、これだけ密度の高い光魔法に加え、長距離転移まで合わせたのか!?」


驚きの声はスノーからだった。
詠唱がやけに長かったのもこの為か。
肌を刺すような強い魔力はもちろん、人や物を長距離移動させるなんて高位エルフですらなかなか出来ない技。
それを、辺り一帯にいるバシュデラ全てを対象にするなど、もはやエルフの母であるカイラ神の領域だ。
あのマヒトが惚れ込むのも頷ける。
一体どれほどの魔力を保持しているのか。冷静な態度からいってまだ魔力は余裕で残っているようだ。
バシュデラの少年長もタカヒトの実力を感じ、奥歯で歯ぎしりをしだした。
眷属はスノーが感嘆してる間に光の柱に吸い込まれてしまっている。


「アルの予言書にバシュデラの撤退なんてないぞ!?トリックスターなんて不要だ!」
「その予言書とやらの存在を聞くのは2度目だな・・・。お前達が何を目指し従ってるか知らんが、

俺はレファスの地を守るだけだ。」
「邪魔だよあんた・・・!」


バシュデラ特有の紫の肌が浅黒く変色した。
背中の翼が広がり、内側から沸き上がった力が拘束していた白いムチを打ち払う。
タカヒトが剣を抜くより早く地面に手を置いた。


「我が契約に応え姿を表せ、キヨウ!」

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