報告会議
荒れ果てた街で、無事リョクエンを見つけだしたタカヒトは、王子二人と世話係をファーンに乗せ城内に着陸した。
「ありがとうございました、隊長。」
「当然の勤めです。手筈通り、街に残された住民は城内に転移しております。ご安心を。」
「助かりましたわ隊長さん。リョクエンったら、全員を助けるまで城に戻ろうとしないんだもの。」
「ホントだよ。」
世話係の少女が横目で若き王子―いや、王を見ながら言った。
リョクエンは街で怪我人の救出や陣頭指揮を行なっていた。
クサナギが言った通り、どう説得しても城へは戻ろうとはしなかったが、妥協案として、タカヒトが街中にいるマヤーナの恩恵がある者―つまりガムール都民―を転移魔法で一気に連れていくと提案したら、やっと首を縦に振り、ファーンに乗ったのだ。
不特定な人数を一気に探しだし転移させる術は実に面倒で、長々と詠唱したり魔法陣を描いたり手間が掛ったが、王を無事避難させたので一安心だ。
「でわ、僕は此処で失礼を。マコト兄様に現状を聞いて参ります。」
「少し休まれませ。国の大事に陛下が倒れられては大変です。こういう時こそ休養は必要です。いざというときの為に。」
「ありがとうございます。タカヒト隊長もお休み下さい。ユークリアの戦いからお休みになってないのでしょう?」
「自分は軍人ですので。」
「いけません。」
「でわ私も、クサナギ将軍に現状を聞いたら少し休むとしましょう。」
若き王に微笑むと、王も納得したのか、頭を下げるとエミとヤマトを連れ城内へと向かって行った。
本当は休む気はなかった。
新たな王に早速嘘をついてしまったと思いながら、特に悪い気はしていない。
騎士団隊長の体は特殊で、3日程なら休まずとも問題はない。
マヤーナが常に魔力と体力補充をしてくれるのだ。
気力は自分で何とかしなければならないが。
タカヒトもファーンを厩に戻すとクサナギを探しに庭園へ向かった。
警備をしていた兵に、本部は中央棟横のテントだと聞いていた時、女性の声が彼を呼んだ。
「隊長!」
「リセル!無事に戻ったな。」
「はい。ユークリアにいた悪魔を全滅させ、ウロボロスも捕虜に。抵抗した勢力は壊滅させました。」
「ご苦労だった。」
副官と共に本部テントへ向かう。
カウス城中央付近は、物資と食料配給を行なっているため、騎士団兵や一般都民が入り交じり賑やかであった。
普段の城内では絶対に見られない光景だ。
「トキヤはどうした。」
「早速情報収集をしに行きました。」
「それは助かる。」
配給場所から少しだけ後ろにある大きなテントに入る。
喧騒遮断の魔法がかけられていて、中は静かだった。
大きな木の机の周りには重臣数名とタカヒトの部下であるウィザード隊のミレイナ、精霊召喚士のバッサム、奥にはクサナギもいた。
タカヒトは部下に労いの言葉をかけてから、クサナギの横に立つ。
「リョクエン様を無事城内へお連れしました。」
「流石だな。」
彼が転移魔法で交渉したと説明していると、トキヤもテントに顔を出した。
クサナギが椅子から立ち上がる。
「よし。揃ったようだから、報告会議を始めよう。」
雑談していた者達も口をつむぎ机に集まる。
「戻ったばかりの騎士団諸君の為に、一から事態を説明する。質問は後にしてまず聞いてくれ。
昨日の正午過ぎ、バシュデラが忍ばせた悪魔により首都結界が破られた。
結界崩壊により、何処からか現れた悪魔共がガムールに侵入。
大僧正様が街全域に防壁を張って下さったが、昨晩遅く、悪魔の瘴気に当たられ陛下がご逝去された。
よって、現在暫定的な王位継承はリョクエン様となっている。」
陛下ご逝去の事実を知らなかったらしいリセルは口元に手を当て驚いたが、口を挟まず、クサナギは続けた。
「そして本日早朝。大僧正様のご負担を減らす為、防壁をカウス城全域に変更。街に避難警報を出した。
今安全なのはこの城だけだ。
一般都民には西棟、貴族館と乗馬庭園を解放。怪我人は東棟一階で医師とウィザードによる治療を行なっている。
貴族の方々は王宮にいらっしゃるが、大半は大陸へ避難した。しかし・・・エルフの守りが消え船は海に沈んだと報告があった。」
悔しそうに話すクサナギ。
きっと、一般人が城内に雪崩こみ我慢出来なくなった貴族達がクサナギの制止を振りきって無理矢理船を出したのだろう。
貴族嫌いのトキヤは自業自得だと悪態をついたが、もちろん口には出さなかった。
「王族方は指揮をして下さっているマコト殿下を除き王居棟に集まって頂き、結界の中でお守りしている。騎士団は隊列が落ち着き次第応援を頼みたい。」
「御意。」
「俺からは以上だ。」
「兵の配置状況は?」
「半分を王居棟に割き、各城門に50、城内見回りと、一般都民の誘導や監視をさせている。大僧正様に甘えた状況だ。」
タカヒトは腕を組み、机の上に広げられた城内の地図を見る。
「籠城は長引くわけには行きません。街にいる悪魔共を殲滅しなければ。」
「悪魔は次々召喚されてると聞く。」
「バシュデラの長が、自分の死体を対価に大量召喚を行いました。悪魔指揮の権利は同盟を組んでいたウロボロスの魔導師に引き継がれ、そいつを倒せば手っ取り早いのですが、砂場から一粒の砂を探す程困難でしょう。」
「ならどうする。」
「まずは城内全面解放を考えた方がいいと思いますよ。」
トキヤが緊張感のない声で提案すると、同席していた重臣達が意義を唱えるが、彼は手をヒラヒラさせながら言葉を返した。
「王家のお住まいだけ侵されないようにすれば問題ないでしょう。今は身分だ何だとこだわってられませんよ。僧侶様による結界は普通一時的なものです。それをご高齢の大僧正様に何日もお任せするわけにいきません。一度街を覆う巨大結界を張ったなら、消耗は激しいはずです。
都民を城内に収容し、明日の朝、建物のみに結界を狭めましょう。隊長、」
文句ありげな重臣を無視してタカヒトに顔を向ける。
「首都結界はどれくらいで張り直せます?」
「3日。」
「時間掛りますね。」
「あれは防壁と違い、独立させるため地脈と同調させたりと大事なのだ。それに、もう王妃様と大僧正様に頼むわけに行かないから、人材がいない。」
「うーん。」
トキヤは顎に指を当て策を講じる。
その間、タカヒトは兵の振り当てを始める。