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水色の瞳



城内軍事会議室に、緑髪の少年が入ってきた。
中にいた人間は揃って席を立ち、頭を下げる。


「皆さん、どうか仕事を続けて下さい。レファスの大事です。礼儀は後回しで。」


若き新たな王に諭され、皆渋々手を動かし始める。
リョクエンは重鎮が集まるの机に寄った。
何故かジェギヌ王子ヤマトもいたが、今は王子を演じている最中らしいので会釈だけして騎士団の一人に問いかける。


「現状は。」
「芳しくありません。悪魔が次々カウス城へ集まってきています。騎士団の兵も、怪我人が増える一方です。」
「避難場所は?」
「そちらは今のところ問題ありません。結界が効いております。」
「良かった・・・。都民の皆様は不安がっておられるでしょうね。」
「マヤーナへの祈りで溢れておりますが、レファス人は強い人種です。励ましあい我が騎士達の勝利を望んでいてくれます。」


いかにも真面目そうな騎士が胸を張って言うので、リョクエンも力強く頷き返す。
斥候の一人が入ってきて、騎士団の新たな怪我人の報告や状況を伝えだすと、少し慌ただしくなり、誰も王子―暫定国王―の相手をしなくなった。
その隙に、ヤマトが隣にそっと移動してきた。


「お前が大人しくしてるなんて驚きだよ。今ごろ庶民のトコで演説してんのかと思った。」
「僕、人前苦手なんだ。」
「どんな王子だよ。」
「それに、王は勝利を手にしたときのみ顔を出すものだってエミちゃんに強く反対されちゃって。」
「世話係はどうした?」
「情報収集。」
「ケッケ。王子ほったらかしで、忙しいこった。・・・ん?」


ヤマトの長い耳がピクリと動く。


「マヒト・・・?」
「マヒトさん?」
「知ってんのか。」
「うん。お会いした。」
「お前呼んでるみたいだな・・・。行くか。」


小柄な王子二人がそっと退室しても、誰も気にとめることはなかった。
一国の王子としてそれはどうなのかとヤマトはリョクエンの将来が不安になった。
王というものは、居るだけで存在感を放ち自然と膝を折らせなければならないのではないか。
まあ、今は好都合だ。
遠くの些細な音でも聞くことが出来るミュン族の聴力凄まじく、マヒトの声がしたのは、軍事会議室がある中央棟と図書館を繋ぐ外回廊だという。
建物から出ると、罵声がどこかしらから聞こえてくるが、幸い悪魔の姿は見えない。
回廊を建物沿いに歩くと、柱の影から松葉色外套をまとうマヒトが現れた。


「俺様の聴力試したんじゃないだろうな、マヒト。」
「此処で呟けば聞こえると思ってたよヤマト。ありがとう。」
「なんだよ・・・素直に礼を言われるとは、気持わりーな。」
「ヤマトとも、色々話たかったけど、時間だ。」


マヒトの姿が霞む。
目の前から消えたと判断した時には、彼はヤマトの斜め後ろに移動しており、手刀でミュン族王子の後首を叩き気絶させた。
倒れるヤマトの体を回廊の柱にもたれかかるよう座らせる。


「ごめんな。此処は結界内だから安心しろ。」
「マヒトさん・・・、何を・・・。」


立ち上がったマヒトは、まっすぐとリョクエンを見た。
息を飲む。
一見地味だった茶の瞳は、薄い水色に光っていた。


「時が来た、レガリアを持つ者よ。ヘミフィアはお前を呼んでいる。」
「ヘミ、フィア・・・?」


突然変貌したマヒトの雰囲気や瞳に驚いて頭が混乱したが、急に意識が静かになった。
海の波がすぅーっと引くような感覚だ。
自我は眠り、疑問は全てなくなり、リョクエンは歩きだしたマヒトの後に続いた。






 

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