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ヘミフィア




何の目的で作られたのか、地下の部屋には荷物一つなく、石垣のように敷き積められた石の壁が囲んであるだけだった。
光の魔法で足元を照らし、扉とやらを探す。
部屋の右奥に、模様が不自然な並びをした床を発見し触ってみる。
窪みを見つけ、そこに指を押し込むと、あっさり扉は開いた。
扉の先は階段が続いており、地下より更に濃い暗闇がうごめいているようである。
階段は下へ続いてるようなので、タカヒトは暗闇に身を沈めた。
階段を数段下り頭が完全に地下部屋より下になった時、首裏にある石が痛んだ。
電気が走ったような痺れを感じ石に指を当てると、少し熱くなっていた。
痛みを感じるなど、生まれて初めてだ。
急に体がダルくなり、光の魔法を強くして、頭の横に浮遊させた。
それでも、濃い闇のせいで階段の数段先しか照らせない。
階段が終わり甃の床に当たったかと思うと、今度は石壁に沿った螺旋階段に繋がった。
道はそこしかないので、階段を再び下る。
螺旋上に延々と伸びる道。
城内にこんな深い場所があるなど聞いたことない。
自分が今どのぐらいの深さにあるのかさえわからなくなる。
痛いぐらいの静寂が頭を圧迫していくようで、集中出来ない。
先程アキラに受けた傷も癒えない。
気付けば、地下に下りてからマヤーナの治癒が急に弱まった気がする。
痛む体を抑えながら、ただただ階段を下りる。
永遠に螺旋は続くと思われたが、いきなり階段は終りを告げ。暗闇の先に、青白い光源が見えた。
近づく度その光は強くなるので、光魔法を消して足を進める。
今いる空間から、光がある部屋のアーチをくぐった時、タカヒトは驚いて足を止めた。


「やっぱり、来てしまったね、タカヒト。」


マヒトがいた。
泣きそうな、でもどこか嬉しそうな微笑を浮かべるマヒトの真後ろには、淡く水色に光る巨大な球体があった。
直径は大人三人が両腕を広げてやっとという長さで、球体内部で霧のような何かが自転している。
神秘的であり、この世のものではないような。美しいのは確かであるそれに、引き寄せられるがまま足を進めた。


「紹介するよ。これが、ヘミフィアだ。」
「これが・・・。」


何度も聞いていた謎の存在の正体がわかって、タカヒトは何故か納得した。
人では無いと聞いていたからかもしれない。
マヒトの向こうに、リョクエンが立っていたのをやっと気づく。
王子はタカヒトと同じように謎の球体に魅入っていて、彼に目もくれない。


「魔法石、か?」
「まぁそんな感じかな。レイエファンスが浮遊しているのは、ヘミフィアのおかげであり、原因だからね。」
「マヒト・・・、お前はこれから何をしようというんだ。」
「・・・俺はこれからヘミフィアと一体になって選定を行う。」
「選定・・・?」
「少し時間もあるし、もう隠さなくていいから、全部話すね。まずは彼の話をしよう。」


球体に背を向けていたマヒトは、くるりと向きを変え、ヘミフィアを見上げた。


「神が生まれるより遥か前に、ヘミフィアは生まれた。まだ形は無く、存在はおぼろなままさ迷い続けていた。
次に、無より神が生まれ、神々はイシュトリという世界を作り、様々な生命を生み出た。
やがて神と生き物は争いだした。それが古代ニア期だね。
ヘミフィアはイシュトリの物質や原理とは別の存在だった。別次元と言っていい。
自ら争い、憎み、命を簡単に捨てる生き物達に怒ったヘミフィアは時間概念という呪いを。神々にはもう新種を産み出させず、イシュトリとは切り離した。
時間が流れると、マヤーナという神が生み出した人間が地上に溢れていた。
ヘミフィアは興味本意で、一番地位の低い人間に声をかけた。
“お前は何を望む”
人間は答えた。
“私は家族もいて、食事も出来て幸せです。でも少しだけ許されるならば、惑星ルナを近くでみたいです。此処は山が多く、曇りがちなのです。いやはや、ルナは本当に美しいですね。”
野心の欠片もない人間の言葉に、ヘミフィアはいたく感激した。
その男と男の親族が住む一帯を大陸から切り取り、空高く浮遊させた。
男は、レイエファンス人だった。
男は浮遊大陸の主となった。セレノア王家の始祖だ。
そしてヘミフィアは、浮遊大陸を支えるため自らイシュトリの原理に適合し、浮遊石のような役割に徹することにした。
眠りにつく前、セレノア初代王である男と約束を交した。
“我はそなたの国を支える為に眠りにつく。しかし、そなたの子孫が悪しき心を持ち命が散らせることがあれば、我はこの地を海に落とすだろう”
王は答える。
“必ずや清く美しい国でありつづけましょう。私の子孫は貴方をガッカリさせたりしません”
“確かにそうだ。お前の息子も、お前の孫も魂は清い。しかし、大陸の生物は清いレイエファンスを狙うだろう。汚れは伝染する。大陸の人間が原因で汚れてしまった時は、私の欠片を子孫の体に埋め込もう。世界がいかように汚れようと、欠片を持つ者、つまりレガリアの魂が気高く清いならば、この国の王となり、国は救われる。”
約束の後、ヘミフィアは惑星ルナの隣にアルテミスを作った。すると微睡む直前、神々と全ての生き物に告げた。
“レイエファンスが汚れれば、アルテミスがルナの明かりを遮り、我は目を覚ます。竜を供だって、我は世界を滅ぼしに行こう。
イシュトリを無に帰させたくなくば、レイエファンスを守れ。レイエファンスに手を出してはならぬ”
まぁそんな具合で、威しをかけてからヘミフィアはエルフにレイエファンスを守らせ、眠りについた。」


マヒトは手を伸ばし、球体にそっと手を当てる。
今だかつて、マヒトがこんなに喋るのは初めてで、やや面食らってしまい、話に思考が追いついていかない。
マヒトは更に続けた。


「あれから何度か大きい争いが起きて、ヘミフィアの力を欲した侵略者がやってきた。
レイエファンスが荒れだしても、レガリアを持つ者がヘミフィアを満足させることで世界は一応の安息を得ている。
でも再び、世界は荒れている・・・よって、レガリアを持つ者が生まれた。リョクエンの首裏に埋まってる。・・・タカヒトにもね。」


タカヒトは、真っ直ぐ見つめられ、無意識に首裏にある石に触れた。


「俺は、王家の人間じゃない。」
「ああ。ただのレファス人。でも、ヘミフィアの欠片を持っている。騎士が、しかも市民出身者が欠片持ちなんて、ヘミフィアも驚いてたよ。アルの予言書にも、タカヒトの存在すら出てこない。」
「その予言書、なんなのだ。よく聞くな。」
「イシュトリの終焉を予言したものだよ。」
「終焉・・・?」
「もちろんまだ決まってない、可能性の話。1200年前、未来を司る神が直接アルという農民に書かせた本物の予言書だよ。
イシュトリが背負った宿命が事細かく書いてある。
例えば、ギルデガンが大陸を半分手にするとか、ウロボロスとバシュデラがレファスに上陸するとか。」
「お前、上陸を知ってたのか?」
「知ってた。少しでも予言をずらしてやろうとしたけど、一種の拘束力があるらしくって、何一つ防げなかった。」






 

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