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新たな王


マヒトが顔を伏せたので、タカヒトは一歩近寄る。


「お前のことを、聞かせてくれ。」
「俺は・・・レガリアを持つ者を見つけ、ヘミフィアへ導く案内人で、ヘミフィアの意思を伝える使い。制定者と呼ぶ人も、ルナの使いと呼ぶ人もいる。俺は、生まれてから500年、ヘミフィアが完全に目覚めるまでレイエファンスを守る為にいた。」
「っ!?」
「ハハ、凄い長生きだろ?外見や中身の成長スピードはかなり遅いんだけどね。」


明るく言ってるつもりなのだろうが、眉尻が下がっていた。
タカヒトは、迷ったあげく、一番聞きたいことを聞いた。


「予言書には、お前がこのあとどうなるか、記されているんだな。」
「・・・“レガリアを導きし少年は、ヘミフィアの意思と融合し、体は空に帰り、その長い一生がついに眠りにつく”」
「何故だ。ヘミフィアは何故自分の為に働いた人間の命を奪う。」
「この日の為だけにに生まれた存在だからだよ。ヘミフィアは500年前から緩やかな微睡みに入っていた。その間レイエファンスを陰から守り、ヘミフィアの変わりに目となる。ヘミフィアがレガリアを持つ者への選定が終わり、無事にまた眠りにつけば、使い間もいらなくなる。」
「お前!死ぬとわかっていてこんな所にいるのか!!?」
「アルの予言書の記述を知ったのは400年も前だよ・・・。ずっと、考えてた。それでも俺は、ヘミフィアの使い。役目を果たすために生まれてきた。」
「そんなこと・・・」
「最後の最後に、サキやタカヒトと知り合えて、色々話したり出来て、本当によかった。500年の中では僅かな時間だったかもしれないけど、あんなに楽しい時間は無かった。きっと、ヘミフィアが最後にくれたプレゼントだ。」
「マヒト・・・。」
「タカヒトは無愛想だけど、優しくて、誰よりもレファスの事を思ってる。家族の為だなんて言ってたけど、騎士団隊長は天職だよ。」
「ならば、レファスに住むお前を守るのも俺の仕事!」
「残念。俺は、人の形をしてるけど、マヤーナの子じゃない。兄さんと僕は神ですら不可侵の存在なんだ。」
「知るか!最初から死ぬ事が決まっている命などあってたまるか!」
「・・・ありがとうタカヒト。ごめんね、時間だ。」


ハッとした時には、マヒトの瞳が青白く染まっていた。
マカボニーの色ではなく、ヘミフィアと同じ水色に光っている。
突如、風が吹き出した。
マヒトの背後、ヘミフィアから風が起こり松葉色外套やタカヒトのマントを柔らかく揺らす。
マヒトの足が床から浮きだした。


「マヒトさん!?」


正気に戻ったらしいリョクエンが、目の前の光景に驚きの声を上げる。
その間に、マヒトはヘミフィアの中心あたりまで浮遊してしまった。
足はタカヒトの頭より高い。


「タカヒト隊長、何が行われているのですか。」
「私にも、わかりません・・・。」
「案ずるでない、レガリアを持つ者達よ。」


頭上のマヒトから声が振る。しかし、声はマヒトのものであるのに、話し方や声の威圧感は少年のものではない。


「使者マヒトの体を借りて、そなた達に問おう。
レガリアを持つ者が、我を満足させぬ時は、契約は終わり、我は消滅するだろう。
レイエファンスの浮力は我によるもの。我が消えた時、レイエファンスも大陸に落ち消滅する。」


二人は息を飲んだ。


「レガリアが二つ存在するなど、今まで無かった。しかし、これより先の未来が決まっておらぬのを思えば、異な事はないだろう。
我の選択で未来が確定していく。現在は、空白。」


地上の揺れが、ついに地下深いこの部屋にまで伝わってきた。
竜の存在を思い出し、ヘミフィアが乗り移ったマヒトを見上げる。


「ヘミフィア、聞きたい事がある!」
「許可する。」
「竜を解き放つのは、貴方のはずだ。セレノア初代王の子孫が悪に染まった時に竜と共に世界を滅ぼすのだろう?なぜ、既に竜は解放され、レイエファンスはこんなに不安定なのだ!」
「第一のレガリア、その問いに答えよう。アルの予言書という存在を知り、世界崩壊を拒絶した者達があがいた結界、未来が少しずつ変わったからだ。
あがきが、可能性を産んだ。
そなたを産んだ。」
「俺を?」
「我の欠片は、初代王の血脈に植え付けた。そなたの血には、微塵もセレノアの血は入っていない。にも関わらず、欠片は現れた。」
「先に言っておくが、俺は王だの世界だの、正直どうでもいい。」


急に吹っ切れた様子のタカヒトは、体に掛ったマントを払った。


「俺は、俺の大切なものを守る。あんたが世界を滅ぼすというなら、俺が止める。
マヒトを連れて行くというなら、必ず引き戻す。」


ヘミフィアが宿ったマヒトの口元が、微笑みを形作った。
タカヒトの言葉に満足したのか、彼には何も言わずリョクエンに顔を向けた。


「第二のレガリア、そなたに問おう。望みはなんだ。」


現状も、目の前の球体も、何も分かってない王子だったが、マヒトを通して話す存在からの問いに、表情を引き締めた。


「僕の望みは、人々の笑顔です。明るくてたくましいレイエファンス人が大好きです。昨夜、都民の方々とお話して、心からそう思いました。
なのに、多くの命が散ってしまい、僕は、自分の無力を呪いました。
僕は弱く、何も出来ません・・・。ですが、セレノア王家の人間です。
一刻も早く、彼等の笑顔を増やしたいのです。」
「その望み受け入れよう。第一のレガリアの望みも、受け入れよう。」


ヘミフィアの色が、水色から緑に変わった。
球体から吹く風も強くなり、松葉色外套がはためき、マヒトは両腕を水平に広げだした。


「我は選ぶ。我の主、我の冠を託せし存在。
―――リョクエン、そなただ。」





 

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