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お祭り準備

 

 


一年後

レイエファンス国首都ガムールは、お祭り騒ぎとなっていた。
首都結界崩壊による悪魔襲撃の復興で一年遅れになってしまったが、本日めでたく新たな国王の戴冠式がセレノア城で行われることになっている。
式典に一般人は入れないが、戴冠後国王のパレードが予定されており、都民は場所とりや飾り付けに躍起になっていた。
花がそこかしこを彩り、国旗やセレノア王家の紋章が窓に飾ってある光景がそこかしこに見える。
まだ午前だというのに、お祭り好きなレファス人ならではの賑やかな雰囲気に包まれている。
早くも酒で酔いだした男達の横を抜け、サキは中央広場の噴水を目指した。
朝の眩いルナの光を受ける白髪頭の祖父が、若い衆を指揮している。
祖父は、昨年の騒ぎの際、港の長老らしく避難した都民をまとめ騎士団らの負担を減らした働きが認められ、新国王パレードのルート確保など、総指揮をマコト殿下から直々に任命されたのだ。


「おじいちゃん、黒猫通りの飾り付け終ったよ。」
「ご苦労。」
「あと手伝う事ある?」
「もう力仕事だけじゃ。帰って早めに昼飯を済ませておけ。パレードが終われば酔っ払いらが押し寄せてくるぞ。」
「うん。お母さん達が大急ぎで準備してる。今日はミヤコさんいないから。」
「甥である国王陛下の晴れ舞台だからな。・・・此処一年、陛下自ら荒地に足を踏み入れ何度も視察にいらした。素晴らしい王になられるだろう。レイエファンスはまた素晴らしい国になる。未来は明るいのぉ。」
「達観した物言いやめてよ、おじいちゃん。まだまだ現役でしょ?おじいちゃんが皆をまとめなきゃ。」
「そうだのぉ。―――おいそこ!何をしておる!歪んでいるではないか!」


早速若者に怒声を飛ばしだした祖父に手を振って、サキは回れ右をし店に戻った。
夕方まで臨時休業なので客はいないはずなのだが、丸テーブルに金髪の男が食事を取っていた。


「イツキさん。」
「おはよー。って、そろそろ昼か。」
「式典に出席するんじゃなかったの?」
「俺があんな面倒な行事我慢出来ると思うかい?一般人は居心地悪いしね。マリンが変わりに行ってくれたから、俺はのんびりパレード見学でもするよ。」
「怒られても知らないよ。陛下とは一応親族なのに。」
「ま、ミヤコは王位ないし。今回だって陛下の招待だし。ところで、タカヒト君は?」
「戴冠式で大忙し。騎士は式で役割もあるし、パレードも警備もあるらしいから。一昨日顔見せたけど、ぐったりだった。」


「竜を追い返した国の英雄も、パレードに参加すればいいのに。」
「先導はするらしいけど・・・。タカヒトもまだまだ現役がいいんだよ。それに、タカヒトが笑顔で手を振れると思う?」
「アハハ。違いない。今日も平和で、素晴らしいね。」


トワコに呼ばれ、席を立つ。
厨房では、雇ったシェフとトワコが大忙しで食事の下準備をしていた。
お祭り騒ぎの時は、山より高く料理を積み上げておかねばすぐ品切れてしまうのだ。


「サキちゃん、おじいちゃんのお手伝い終わった?」
「うん。」
「じゃあパンを焼いてくれないかしら。パンはサキちゃんじゃないと。」
「サキのパンは評判いいからね。」


エプロンで手を拭きながらカズマもやって来た。


「あらカズちゃん。私の腕が良くないって言いたいの?」
「トワコの料理は格別さ。ただ、君の手料理を独り占め出来なくて妬いてるのさ。」
「まあカズちゃん!」


娘の前であろうが、新婚のようにラブラブな両親に苦笑をもらし、サキもエプロンをつける。
ただ、父カズマが元気になって母と楽しそうに話しているのはとても嬉しい。
以前は、病に侵されていたせいで、笑顔に覇気が無かった。
イツキ医師が言っていた通り、平和で素晴らしい時間が流れていることに、最大限の幸せを感じた。
それもこれも、マヤーナと、タカヒトと、彼のおかげなのだ――――
サキは材料を並べ、パンを作りだす。
お店用と分けて、くるみパンも。


「これでピレーモもあったら、喜んでくれるのに。」







 

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