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パレード




昼も大分過ぎたころ、カウスとガムールを遮る城門が開いた。
待ちに待ったパレードの開始に、門が開いただけで人々は熱狂的な声を上げ、フライング気味な色とりどりの紙吹雪が舞う。
まず始めに、セレノア王家の紋旗と国旗を掲げる兵士が姿を現し、白馬に跨った騎士団隊長が先導する。
彼の英雄談は誇張や尾びれが存分につき都民に広まっているため、明らかに不機嫌な隊長にも大きな呼び声が降る。
しかし、隊長のすぐ後ろに馬車が現れた時、民衆の視線が移った。
屋根の無い白い馬車が城門の影からゆっくり姿を見せる。
車輪まで白塗りの立派な馬車で、赤張りのシートの上には緊張した面持ちの若き国王が膝に冠を乗せ座っていた。
国王の姿が完全に見えた時、まるで空気がうねるような、一体となった民衆の声が爆発した。
国民もまた、この日を待っていたのだ。
崩壊から見事に再生し、国王でありながら自ら都民に歩みよった姿は、親近感と共に、明るく素晴らしい国の未来が垣間見えた気がしていた。
大勢の目や声を一度に向けられ面食らってしまった国王だが、人々の眩い笑顔や、嬉しそうで、幸せいっぱいの街の雰囲気を汲みとると、自然な微笑みで手を降っていた。
パレードは問題なく開始された。
一方その頃。
黒猫広場と呼ばれる通りにサキは来ていた。
港に一番近い大通りで、パレードのルートとなっている。
雨海亭の下準備も終えたので、母にパレードを見てくるよう進められやってきたのだが、既に通りは人で溢れかえっており、背が高くないサキは背伸びしても陛下の姿は見れそうになかった。
正装姿のタカヒトも一目見たかったのだが。
群衆の後方でウロウロしていると、誰かに手を握られた。


「来て。」


群衆から抜け出し、手を引かれるまま通りを掛ける。
黒猫通りから一本道を外れた時、サキの手を引いていた人物は足を止めた。


「ちょっと失礼。」
「うわぁ。」


サキをお姫様抱っこをして、地面を蹴る。
一回の跳躍で3階建ての屋根上に移動しており、サキ驚いて辺りを見渡す。
惑星ルナが一段と近くなっていた。
黒猫通りに溢れる人々が押し合う光景が一望出来る。


「特等席でしょ?」
「びっくりした・・・。久しぶりね、マヒト。」


にっこりと微笑んだマヒトは、松葉色外套を外し、屋根に敷くと座るよう進める。


「タカヒトの晴れ舞台、一緒に見ようと思って。」


聞きたい事は沢山あるのだが、サキは何も言わず腰を下ろした。
こんな幸福感に包まれた雰囲気の中にいるのだから。
その時、足元から大きな歓声が響いた。
通りに目を戻すと、旗手が角を曲がり黒猫通りに入ってきた。
次に、白馬―サキの命名によりシルバに跨ったタカヒトの姿が見えた。
マントを肩にかけ、きっちりとした正装に身を包んでいる。


「タカヒトかっこいい。でもちょっと疲れてる。」
「これだけの観衆にさらされてるからね。ウンザリして早く帰りたいとか思ってるよ。」
「フフ、そうだと思うわ。」


紙吹雪が舞う中を、パレードは進む。
馬車の上にいる緑髪の国王陛下は、にこやかに手を降っている。
お若いとは聞いていたが、自分より年下なのかもしれない。
聰明な顔つきを見て、祖父が言っていた通り、未来は明るいという気がした。
またすぐ義兄に視線を戻す。
ふと、タカヒトが顔を上げた。
結構離れているのに、目があった。
妹とマヒトが屋根の上にいて慌てだしたのが離れていてもわかった。
引き吊るタカヒトの顔に二人は吹き出し、マヒトはふざけて大げさに両手を振りだした。サキも真似して手を振る。
苦い顔をしていたタカヒトだが、妹とマヒトが無事元通りになってホッとしたのか、二人だけに柔らかく微笑みを向けそのまま行進し屋根の下に消えてしまった。
パレードが過ぎ去ると群衆は散々に消えてゆく。
潮が一気に引いたように、黒猫通りは静かになった。


「タカヒトと目が合っちゃったね。」
「うん、面白かったな!あの顔・・・ククク。後で冷やかしてやろうぜ。」


イタズラが成功して喜ぶ子供みたいなマヒトに笑い掛けて、色素の薄い空をみた。
サキの長い黒髪が、柔らかい風に揺れる。


「マヒト、タカヒトをお願いね。」


笑顔を引っ込め、美しいサキの横顔を見つめる。
兄と同じで無表情なことが多いサキが、微笑を浮かべ空を見ていた。


「話、聞いたのか?」
「ううん、勘。私の勘は当たるの。タカヒト、毎日を大切そうに過ごしてるから、そのうち何処かに行ってしまうつもりなのでしょう?」
「凄いな、サキは。」
「タカヒトの妹だもの。」
「ハハハ。そうだった。でも安心してよ。あと数年はこのままだから。」
「そう。よかった。」


顔を戻したサキは、ずっと抱えていたカゴバッグから包みを取り出した。
くるみパンが二つ、包まれていた。


「いつマヒトが会いに来てくれてもいいように、毎日とっておいたのよ。美味しいって言ってくれたから。」
「・・・っ」
「ピレーモは手に入らなかったの。ごめんね。」
「ありがとうサキ・・・。俺こそ、ごめん。」
「もうさよならは無しね。」
「わかった。」
「ささ、食べて。スープもあるのよ。」


サキからパンを受け取り食べながら、頬に涙が伝う。
涙で顔がぐしゃぐしゃになろうと構わずに、パンを口に放り込む。
美味しい?というサキの問いに何度も首を縦に振って答える。
サキは満足そうに笑って、マヒトがパンを完食するのを優しく見守った。
屋根の上での、穏やかで幸せな時間であった。








 

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