侵略者達2
空前絶後、阿鼻叫喚、地獄絵図。
どれも当てはまるようで全てを超越した悲痛に喘ぐ絶叫が、岩肌に反響して木霊しいつまでも耳に届く。
紫に近い肌をした少年は一際大きな悲鳴が聞こえ口角を上げた。
まるで生まれたてのひな鳥のうぶ声を聞いてるような優雅さでソファーの横にあるグラスを取った。
少年は赤黒い鋭利な爪でぶどうの葉と花の装飾で飾るグラスを握り、赤いドロリとした飲み物を煽った。
身を預ける巨大クッションは金縁の紫サテンで、絨毯は紫と赤の縞。
そこは闇の種族バシュデラの侵略部隊アルグル=フラヴァの地底拠点。
紫の肌に黒いコウモリのような翼を持っていて、古代史によれば暗黒の地獄神が生み出した種族であり、他の種族からは悪魔と呼ばれ忌み嫌われている。もちろん悪魔とは違う。悪魔召喚士が呼ぶ悪魔は物質的ではなく、神話の世界に生きる者だ。
しかしバシュデラ族は地獄神に捧げる儀式と偽わり、自らの快楽のため犠を誘拐しては残忍な拷問を死ぬまで続けるという。
他の種族、特に人間種は能力が劣る為狙われ易くバシュデラ族を警戒していた。
そのバシュデラ族の長はソファーに横たわる少年。
ジュースのおかわりを持ってきた女のバシュデラが空いたグラスにドロリとした飲み物を注ぐ。
バシュデラ族の服は最低限の部分しか隠していないため露出が多く、グラスを置いた女は豊満な胸がほぼむき出し状態のまま少年の隣に腰かける。
「ギルデガンの精鋭部隊がレイエファンスの地に足を踏み入れたそうですわよ。」
「それぐらいはしてもらわなきゃ困るよ~。地上で大手を張って威張り始めたギルデガンなんだから、精々騎士団を半分減らすぐらいやってくれなきゃ。」
「おいしい所をかっさらうって作戦ですわね。素晴らしいわ、カナメ様。」
女は四ん這いになり少年の首に長い腕を絡めた。
突き出された腰と尻の間にある羽と同じ様な色の尻尾を降る。
「しょうがないよね~。バシュデラは地上では余り長く生活出来ないし、忌々しいレイエファンスの空気は僕達には毒同然。レイエファンスを壊してしまえばもう少し地上も住みやすくなるのに。」
「ワタクシが参りますわ。カナメ様の為にレイエファンス人の犠を。」
「ヒカリにそんな事させられないよ。いくら僕の眷属とは言え無敵じゃないから。ギルデガンに協定拒否されちゃったし、今は待つしかないね~。ウロボロスの筆頭魔導師も、中々面白いヤツみたいだ。」
少年長が手を二回叩くと、悲鳴が止んだ。
「暇なうちに色々準備しとかなきゃ。夜の間に進軍開始、レイエファンスに乗り込む手筈も考えよう。」
「お任せ下さいカナメ様。ワタクシが全て整えておきます。」
「ヒカリは頭がいいから好きだよ。」
「まあ、嬉しい。」
より一層ヒカリは少年にくっつき頬擦りをし、少年は壁を切り抜いたような洞穴の向こうに人差し指を向けた。
すると、指から紫の炎が放出され、先程より強い断末魔の悲鳴―いや絶叫があがる。
炎に浮かぶ人影は身悶えながら地面に倒れた。
「カナメ様の残忍な所、ワタクシは大好きですわ。」
恍惚の表情を浮かべ、ヒカリは赤い唇で綺麗な弧を描いてみせた。