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三、火有珠国の噂話



「なぁ知ってるか?一年中春が続く楽園があるって話。」


食事処で偶然隣の机になった酔っ払いが急に切り出した話に、知らないと首を横に振る。


「この国は宮処ー細かくいえば三神が統治してんのはもちろん知ってるだろ?」


次の問いには首を縦に振る。
国の中心である宮処が政治の中枢であり、地方町村に至るまで監視の目を光らせ
この火有珠国の平和の為動いていることは子供でも知っている常識だ。
土地を平等に分けたり、新たな規律を作ったり、徴税を行ったり、
宮処には多くの部署と役割があるが、核となっているのは一ノ宮、二ノ宮、三ノ宮という三神だ。
もちろん神ではない。
古来より三つの宮が話し合い国を支え大きくしたと聞く。
今では政治のほとんどを他の部署に任せているが、今も絶大な影響力がある一族達だ。
三神は一般人の前に出ることはおろか、詳しい情報はほとんど漏れず
貧民達の中にはお伽話の中に存在する一族だと勘違いしてるものも多い。
隣で冷酒を煽る男は、赤い頬にとろんとした目をしながらも、声と意識だけはしっかりと保ち
これから話す内容を小出しにする楽しみに酔っているようだった。
机の上には空の酒瓶が四本も転がっているというのに。


「だがよ、実際には三神の中心に桜ノ宮っていう神聖な存在があって、三神はそいつを守ってるって話だ。」


またお猪口を傾ける男に、その桜ノ宮が国を動かしてるとでもいうのか、と問う。
すると男はゆっくりと首を左右に振って、もったいぶった笑いをもらす。


「桜ノ宮は常世のそれはそれは美しい姫君で、姫が住まう処は一年中春なんだとよ。
毎日桜が咲いて、毎日暖かな季候に包まれてる。
姫様が花咲じいさんだって?・・・ハッハッハ。確かにそうかもな。
だが姫様がただ桜を咲かせ続けるだけの存在じゃねぇらしいんだ。こんなお伽話がある。」


酒瓶を四本も転がしているくせにはっきりしっかりと喋る男のを簡単にまとめるとこうだ。
昔々、神様が世界と生物を造り終え常世に帰ってしまった後のこと。
人間をまとめていた三兄弟がとある山の奥に光り輝く木を見つけた。
幹は太く、葉は青々と茂り、何より木が放つ空気は清く神聖であった。
木は神が世界に残した置き土産だと三兄弟は信じ、神木として崇めることにした。
神木に惹かれていたのは人間だけにあらず。
“あるはずもない者”、人間が鬼と呼んで忌み嫌っていた彼らも神木を欲していた。
ある新月の晩、闇に紛れ人間の里に降り立った鬼は神木を持ち帰ろうとその幹に触れる。
すると神木の花が一気に開き、咲いたばかりだというのに散っていく。
木は見る見る花を散らしそして枯れてしまう。
人間は鬼を殺しまくってこの世とあの世の狭間に閉じ込めた。
悲しんだ人間だったが、枯れた神木の最後の実から、赤子が出てきた。
赤子が笑うと辺り一面春になった。
辺りの木々は神木に似た桜という木に変わり、その花は咲くことはあっても決して散らなかった。
それだけじゃない。
不治の病にかかっていた者は全快し、目の見えぬ者は見えるようになり、腕がない男に新しい腕が生えた。
治癒と再生の力を持った赤子が鬼を始め悪しき者に二度と狙われぬようにと、不思議な力を神から授かっていた三兄弟は
その一体を結界で覆い守ることにした。
赤子は桜姫と呼ばれ、この子供も、そのまた子供にも力は引き継がれ、今も世界のどこかでひっそり暮らしながら
不治の病に冒された人々を直してくれてるという。


「このお伽話に出てくる三兄弟の末裔が三神と呼ばれてて、桜姫がいるのが火有珠国の中心にある都のさらに真ん中、宮殿のどっかじゃないかと言われてる。
え?鬼が可哀想だって?アンタ変わってんねぇ。
鬼と言えばお伽話でもなんでもねぇ。人間を食う怪物だ。まあ滅多に現れねぇけど、人間じゃ倒せないって言われてる。
鬼を倒したやつは鬼斬りって呼ばれ恐れられてるがな、あの鬼を倒すんだ。そいつももう鬼みたいなもんだ。
だいたい、鬼は悪の権化だ。人間の欲とか凶悪性から生まれちまったって神話もあらぁ。」


男が持っていた徳利が真っ二つに割れる。
半分ほど残っていた酒が男の手にしたたり、机に染みができる。


「うわ、なんだなんだ、こんな綺麗に割れ・・・・お前さん、その隣にいる金髪の兄ちゃんいつからそこに・・・
ぎゃああ!!人が刀になったあああ!」


語り手気絶につき、中断。






 

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