第三部 夜永月の妖星闊歩11
「・・・ろ、起きろ。透夜。」
声がする。耳に馴染んだ声。
目覚めより先に、指先の冷えが気になった。
重たい瞼を無理矢理開くと、闇が此方を伺っていた。
どこかのビルの上に座らされていたらしい。背中の壁は冷たい。
「状況は。」
「平将門、酒呑童子は消滅を確認。崇徳天皇側はまだ対応中。更衣も薬師寺に加勢している。隠士達はまだ姿を見せていない。」
細く息を吸いながら、のろのろとした動きで立ち上がる。
足に力が入りづらく、酷く頭が痛んだ。
「結界が俺の手から離れた隙を狙われた・・・。平川がボスと呼んでた奴の仕業だ。」
「ボスも此処に来ているということか。」
「ええ。一瞬接触してきてくれたおかげで、場所がわかりました。」
内側がズキズキと痛む頭を押さえながら、辺りを探る。
都庁が見える。池袋から新宿に近いビルの上なのであろう。
酒呑童子が消えたせいか、幾分か赤い霧が薄くなったように思う。
「星爾さんは人鬼を探して下さい。また邪魔されては困る。」
「お前は二度、奴の拘束に屈している。」
「俺が何も対策していないとでも?・・・今度はぶちのめす。」
「わかった。何かあれば呼べ。」
星爾の気配が消え、一度深く息を吐いた。
透夜が顔を上げた時には、そこはビルの上ではなかった。
六車線の広い道路の真ん中で仁王立ちをする。結界内なので、行き交う車も通行人もいない。
ナバリの姿もなければ、音もしない。現実の都庁ではありえない、静寂に包まれている。
透夜の左手側には、南北の双子棟が特徴的な都庁が口を閉ざすようにそびえ立っている。
信号機までも沈黙し、スリムな街灯が横断歩道を照らし続けている。
都庁の入り口へ入るスロープの手前で、透夜はその男と向かい合っていた。
結界の中だというのに、冬を感じさせる冷たい風が過ぎていく。
濃い霊気が急激に高まったせいだろう。
「今はなんて呼べばいい。保那か。」
ベージュのコートに両手を突っ込んだ青年は、透夜より少しだけ年上に見える。
短めに整えられた黒髪。前髪の下にある太めの眉。
街灯に照らされた顔には、口元に僅かな笑みを携えていた。
「それとも、冥王か。」
「好きに呼んでくれ。摩夜は、そこまで日記に書いていたのかい?」
「あれは日記というより、親友を失った後悔の念を書き綴ったものだった。
闇を好み禁術で冥王に落ちたあんたを、摩夜は助けたかった。結果、体は七星の山に、魂は摩夜が送り損ねた。今度は俺が、あんたの魂を消し炭にしてやる。」
透夜は右手に、呼び出した錫杖を握りしめた。
摩夜が使っていたもので、柄は黒く、長く作られており、透夜の身長より少し小さいだけ。
四個ぶら下がった遊環が、曇りのない透き通った音を鳴らす。
音が、都庁周辺に漂っていた冷たい空気を僅かに遠ざける。
「ああ、懐かしいなその錫杖。列島行脚している途中、寺の坊さんにもらったんだ。」
知ってる、と鋭い声音で吐き捨てた透夜が、右手の錫杖を構えた。
すると下から風が湧き上がり、肩の羽織が舞い上がる。
透夜の霊力が白いオーラとして具現化し、目に見えて高まっていく。
白いオーラが強く噴出しながら上に溜まっていく。
固まった霊気が、だんだんと形を成してきた。
それは、白い着物を纏った巨大な女の姿になった。
二メートルを超えた体は宙に浮いており、裾と袖がとても長く、背中に落ちた白い髪もまた、床に落ちるほど長い。
顔は白い面で覆われており、表情は窺えない。面の凹凸はほとんどなく、鼻のあたりに浮き出たような線が一本刻まれているだけ。
体の前に垂れた両腕と猫背ぎみの姿勢、背中に纏った黒い霧が、どことなく気味悪く映る。
「虚像召喚、マガツカミ。」
保那が、ニヤリと愉快そうに口角を引き上げ笑みを深くした。
「マガツカミは厄を司る神。厄除けの守護神として信仰されていたり、須佐之男命の荒魂として恐れられているが、ほとんどの日本人はこの神の名を知らないだろう。だが、習慣は根付いている。
神道でも仏教でもなく信仰すら持ち合わせていないとしても、厄年や厄除けなんて言葉は気にしている。ほぼ全ての国民が信仰してるんだ、最強の虚像召喚であると言える。さすがだね。」
「両親を殺したお前を、俺が此処で滅する。」
「出来るかい?摩夜でも不可能だったんだ。」
透夜の後ろに守護神のように待機していたマガツカミが、垂れていた頭を上げた。
背負っていた黒い靄が、どんどん広がって体に纏い出す。それは結界内に落ちた夜の帳より濃い闇になる。
「マガツカミ。厄災累々。」
錫杖を握っていた左手を天に掲げ、人差し指を向ける。
「天恵の章。――――落雷。」
ビシッと袖の音を鳴らしながら、天に向けた人差し指を保那に向ける。
空に一本の線が走ったかと思えば、耳が裂ける程の轟音を伴って雷が落ちた。
都庁前の道路が抉られ、何本もひび割れが走る。
飛び散った瓦礫が落ちきる前に、透夜は右に目線を動かしながら錫杖を構える。
「天恵の章、豪水。」
雷を避け、道路を横切って都民広場の方へと逃げた保那の体が激流の波にさらわれた。
どこからともなく湧き出した大量の水による水圧が自由を奪う。
マガツカミは、厄の象徴でもある。
古くから人々は、竜巻、豪雨などの天災も、疫病や人の死ですら疫病神の仕業であると理由を付けて生きてきた。
神ほどの絶対的強者の成すことならば仕方の無いことだと、納得する材料にしてきた。
その刷り込みは現代まで続き、人々の思いを形にした虚像召喚において、マガツカミはありとあらゆる現象を引き起こすことが出来る。
まだ涼しい顔を崩さない保那が、水の濁流から飛んで逃れ、右腕を振るって水を内側から爆散させた。
飛び散る水滴の間を縫って、細かな黒い球体が透夜に飛んでくる。
「厄落とし。」
そう言いながら左手の人差し指と中指を地面に向ける。
透夜の眼前にまで迫っていた黒い球体が全て、直角に向きを変え地面に着弾。
透夜の前で砕かれたコンクリートが飛び散るが、見えぬバリアに守られ透夜の体に触れることはなかった。
「厄除け。」
ひねった左手首を回し、指で印を結ぶ。
すると、先程保那が放った黒い球体が現れ、今度は保那の方へ猛スピードで放たれた。
道路脇の歩道から、二段程低くなっている都民広場に飛び降りながら攻撃を避けたが、球体はカーブしながら保那の後をついて回り、やがて背中に着弾。甲高い爆発音が数回聞こえた。
道路の真ん中から歩道の端、低くなった広場を見下ろせる場所まで瞬間移動した透夜が保那を睨む。
ベージュのコートに損傷を受けた形跡はなく、相変わらず細く微笑んでこちらを見上げていた。
「人間相手なら最強かもしれないけど、魂の俺には分が悪いね。」
「言ってろ。」
右手に握っていた錫杖を腕に挟み、両手で印を結ぶ。
「マガツカミ。厄災累々、人心の章。」
次いで左手を天に掲げた。
「衝突。落物。」
保那が目線だけを上にすると、頭上高くに車が二台浮いていた。
透夜が腕を振り下ろすのと同時に、車両が落ちてくる。
地面にぶつかるとまず破片が飛び散り、一瞬遅れて中のガソリンによる爆発が二度起きる。
「厄除け。」
車の間を縫ってその場から高く飛んで退避していた保那の真横へと、爆発に巻き込まれて飛び散った建物の瓦礫やガラスが飛んでゆく。
車の破片、折れたポール。様々な物に加え、いつ現れたのか、細い竜巻が三本彼を囲んでいた。
すぐさま体の周りに防壁を張ったが、外側から割られてしまう。
顔にガラスの細かな破片が次々刺さり、飛んできた車のボンネットに右腕が潰される。
再生する前に竜巻に絡まれ、コートが引き裂かれる。
風圧で肉が裂かれ、顔の肉が削がれながら、頭上から錫杖を突き刺すように襲い掛かってくる影を見た。
錫杖の切っ先で額を突き刺され、印を結んだ指に呪を説くと、保那に肉体は内側から爆発した。
「厄を俺にこすりつけたわけか。いわゆる、最高に運が悪いモードってやつかい?」
頭上から声がして、姿を確認する前に、都民広場をぐるっと囲んでいる議事堂の屋上にマガツカミと共に移動する。
傷一つついていない保那が、立っていた。
先程の保那は確かに葬った。ならば、同じ人形を瞬時に形成したということになる。
透夜が張ったこの結界の中でだ。
「無駄だよ、天狼星。俺は霊体だ。この世の理は通用しない。」
保那が手を軽く叩く。
すると、さっきまで無かったはずの炎が辺り一帯を囲って燃えていた。
濃い霊気と炎による陽炎、熱さ、空気の薄さが場を支配する。幻覚であるとわかりながら、透夜の人間である体が一瞬焦げた臭いを感じ取ってしまう。
「お前はもう知っているはずだ。天狼星の宿命を背負った者はこの星を正しい場所へ導かねばならない。その命と引き換えにね。
お前は生まれながらに死ぬことが確定していた。摩夜がそうしたように、儀式を行い門を開け。」
「なぜ長野で俺を殺そうとした。」
「試したかったのだ。お前が天狼星として役目を全う出来る宿命を持つのか。
案の定、お前は守護星によって守られ攻撃は当たらなかった。それもまた、必然であり運命の至る道であると確認できた。」
「俺が門を開くことで、地中深くに埋められたお前も解放されるからか。」
苛立ちを含んだ透夜の声に、保那は確信めいた笑みを向けた。
「武蔵野国結界は武蔵一帯を守護する目的で江戸時代以前に張られたが、元々この土地にあった守りを利用し重ねることで、強固なものにした。
元々あった守りとは、七星開祖・摩夜が張った術式。
摩夜は、冥王の抜け殻となった力の部分を七星の朔山に封じ、闇に落ちたお前自身の魂を武蔵に封じている。
天狼星の力を利用して、儀式を行いながらそれを内側に向け封印の鍵とした。
この封印を解くのは、天狼星の宿命を持つ者だけ。
お前らは自力で武蔵野国結界を解きたかったが、不可能だと判断して直接俺を狙いだした。」
ブラボーなどと言いながら、わざとらしい拍手を送る。
「冥王と呼ばれる所以は、冥土の力を禁術で呼び寄せ俺が纏ったから。俺は死者の國も統べた。
俺の体は朽ち果て力のみが朔山にいるが、もう不要だ。
生も死も適応されない理に俺は到達し、そして此処にいる。」
「偉そうに言うな。誰よりも理に支配されているせいで、自由にならない放浪者が。
摩夜の楔がお前の魂を封じている。」
「ああ、そうなんだ。まさに楔だよ。魂ごと押さえつけられているせいで、どこへも行けない。その楔を、君に抜いて欲しい。」
「自由を得てどうする。お前が欲しねじ伏せようと願っていた摩夜はもういない。」
「いるさ。」
「何?」
口角をまたつり上げて笑みを濃くした。頬に刻まれた影が、不穏に動く。
今目の前にいるのは、いわば思念体。彼が言ったとおり、実態はない。
透夜は錫杖を構えて叫んだ。
「マガツカミ!!!」
透夜の防壁が発動し、さらにその表面をマガツカミが守る。
爆発が起きたせいで何も見えなくなってしまった。炎と黒い煙が高速で透明な防壁の表面を通り過ぎていく。
静寂が訪れたのを確認して、防壁を解く。
都庁周辺を覆っていた炎は消えたが、代わりに濃厚な霊気に包まれ、足元が青白い靄が広がっていた。
目の前にいたのは、マガツカミのように裾の長い白衣を着た巨大な女。
ただ、白い布は黄色くなるまで汚れ、所々に黒い染みや切れたり擦れたりした箇所が見える。
長い髪はみすぼらしいほど乱れ、乾き、艶がない。
首をもたげ俯いているため顔は窺えない。
召喚された女が背負う悲しみと苛立ちが空気に乗っているのか、息を吸う度喉が痛んだ。
滅多に気圧されない透夜ですら、錫杖を握る手に汗が滲んだ。
「黄泉津大神。君の真似をしてみた。」
余裕の笑みを浮かべる保那と対照的に、透夜は奥歯を噛み締めた。
黄泉津大神。つまり、伊邪那美命。カグツチを産んだことで火傷を負った末黄泉に行き、黄泉の王となった神産みの母。
透夜が従えるマガツカミは、黄泉の穢れを伊邪那岐命が川で落とした事で生まれている。
こちらは厄を司るが、黄泉津大神は死者の國を統べる。あくまで人間の世で、人間の理から生まれた厄とは神力の差も、理の違いも段違いだ。
――ここで逃がすわけにはいかない。向こうが遊びでこちらに付き合っている今しかないのだ。
「マガツカミ、厄払い。」
透夜が地面を強く蹴る。
錫杖の切っ先を保那の眉間に向けて突き刺す。
保那の後ろに控えていた黄泉津大神が長い袖で錫杖を払う。一振りで風が巻き上がり腕がちぎれるかと思うほどの圧に押される。
力の流れを利用して右に飛びながら、しゃがんで地面に手の平をつく。
白いコンクリートの上に、水色の陣が浮かぶ。
「星廻交降術、鼓星。」
保那の足元で八つの光が出現し、それが天高く走る光の柱となって保那を囲んだ。
黄泉津大神が光柱に手を伸ばすが、触れた袖が焼け焦げて煙が上がった。
この術は結界を生み出し好きに操る事が出来る。
範囲、形、効果などが自由にカスタマイズ可能で、味方だけ外に出す、敵だけ中に入れるなど術者の思い通り描けるが、複雑故に余程の腕が無いと制御が出来ずはじけて崩れてしまう。
保那は流し目で身を低くした透夜を見たが、微笑んでいるだけだった。
「煌星流々。」
空から、青白いエネルギー弾が雨のように降り始める。
鼓星に捕らえられた保那は動こうとはせず、予想通り黄泉津大神が覆い被さって弾丸の雨を主から守る。
エネルギー弾が黄泉津大神の肩や背中を容赦なく叩きつけるが、当たった箇所が黒く染まるだけで、着弾した弾は黄泉津大神の肌に触れると靄となって消えてしまう。
七星の技はその日の星の並びに影響される。
戦っている相手もまた、摩夜と共に星を読み腕を磨いていた術士。
星廻交降術は摩夜が生み出し作り出した技術のため、当然彼も熟知している。
小さく舌打ちをする。
マガツカミが透夜の頭上で右腕を上げ袖を広げた。
エネルギー弾が途絶えた隙を狙って、いつの間にか手に剣を持っていた黄泉津大神がそれを振り下ろしていたところだった。
攻撃を厄落としとして祓えるマガツカミが、剣の軌道をずらして透夜を守る。
錫杖を振り上げ、下から黄泉津大神の顎を叩いた。
打撃は当たり、仰け反った黄泉津大神が、勢いよく体を前に跳ねさせて口からヘドロのような液体を吐いた。
マガツカミが立ち塞がって守るも、緑色を含んだ泥に巻き込まれ具現化が解かれた。
泥に触れた透夜の防壁も、触れた途端腐ったみたいに表面が溶かされる。
「帯方幕。」
星の煌めきが宿った分厚い壁を呼び出しヘドロを一時防ぐ。
その壁が完全に溶かされ穴が開く前に、横から飛び出して錫杖を黄泉津大神の脇腹に突き刺す。
肉かどうかわからないが、布を越えて内部を刺すと同時に、錫杖に霊力を込めて呪文を唱える。
内側から攻撃されたことで、黄泉津大神はヘドロを吐くのを止め、身を踊らせながら悲鳴を上げた。
声はおよそ人間の喉からは絞り出せないような、心底不快で、腹の奥から不快と不安がせり上がってくる。そんな悲鳴。
黄泉津大神が透夜の方を見た。乱れた髪の間から、憎悪と恨みに染まった右目が睨んでくる。
その瞳は茶色く濁り、眼球は黒。いや、闇が広がっている。
苛立たし気に剣を横凪に払って透夜を遠ざけようと振るうが、体の前に防壁を張って錫杖に力を込め、再び呪文を浴びせる。
あの耳障りな悲鳴がすぐ近くで響き耳がキンと鳴る。
今度は空いた手で透夜の頭を押さえ込もうとしてくるので、仕方なく錫杖を抜いて黄泉津大神の手を錫杖で突き刺す。
こぼれたのは赤い鮮血ではなく、汚らしい泥であった。
頭上からこぼれる泥を浴びるのは危険と本能が察し、右に飛んで避ける。
泥が落ちたコンクリートは、予想通り煙を上げて融解した。
怒りのまま打ち込まれる剣を、錫杖の柄で受け止める。
「お前の両親が死んだ夜、星を見ただろう。あるはずもない星が。」
黄泉津大神の攻撃を受け続けてる最中、透夜の檻の中で大人しくしていた保那が口を挟んできた。
「七星は星を読み、占ったり守ったりするが、全て星の位置に影響される。
あの日生まれた星により、全てのバランスが崩れ、冥王と呼ばれた俺の体が目覚めた。
お前の両親は冥王を抑えることに意識とられていたが、同時に、俺も目覚めていたんだよ。武蔵の地の、底の底でね。」
こちらは必死に戦っているのに、呑気に話し出した声にうんざりしながら、黄泉津大神の苛立ちを受け止め、払い、隙を見て攻撃を加える。
「お前の母は星宮の巫女だったな。もしかして、始めから分かっていたのではないか?
それでも、息子の保護を優先した。父が法具を隠したのも、未来を読んだ上かもしれない。
フフ、わかりやすくていいなお前は。ほら、両親の話をした途端、揺らいだ。」
突然、透夜の体に黒い靄が纏わり付いてきた。
払おうと力を込めたのに、脳天から巨大な手に押さえつけられたみたいに力が出力出来なくなってしまった。この感覚は横浜でも長野でも味わった。
その一瞬で手が後ろに回され、体を拘束されたせいで身動き出来なくなり、膝が地面につく。
手から落ちた錫杖がコロコロと転がって、やがて亜空間に消えた。
拘束していたはずの檻から抜け出して、保那が目の前に立っていた。
悔しげに睨む透夜の眼光を受けて、愉快そうに笑っている。
「術士最強だともてはやされているようだが、俺からすれば赤子同然。冥王を倒すなどと、愚にも付かないよ。天狼星。」
牙をむき出しのままうなる猛犬の如く、奥歯を噛み締めながら睨み続ける透夜をあざ笑って、彼は黄泉津大神の具現化を解いた。
「さて。このまま君を洗脳でもして、儀式をしたくなるようにしてもいい。
でも、それじゃつまらないから、最初の手筈通り、法具を頂くとしようか。」
法具の単語に反応した透夜が口を開く前に、
保那の隣に、夏海が現れた。